第22話 異変があるなら突撃で!
「ごめんね、明ちゃん。1人でもやれなくはないんだけど、2人なら確実だから」
「ん、わかりました」
階層ボスへ向かって走りながら理恵さんが説明してくれた。一部機密情報もある。
話に出ていた『ダンジョン審判教』の過激派が、ここ〈亡霊ダンジョン〉で『何か』をしようとしていたらしい。
その肝心の『何か』の情報は、ストーカーからは得られなかった。
で、痕跡が残っていないかやって来たところに私たちがいたと。しかも、ダンジョンの異変の情報を持ってだ。
関連性を疑わない方がどうかしている。
それで実際にダンジョンへ入って情報収集をしたいんだけど、さすがに異変があったダンジョンに1人で入るのは危ない。そこで私の出番だ。
臨時パーティー内で唯一のCランク冒険者だし、理恵さんは私の力を認めてくれていたらしい。エルダーリッチに連れて行けるのは私くらいだと言っていた。
「エルダーリッチを倒したら、6階層を20分だけ探索するわ。何もなくてもそれで一旦切り上げ。明ちゃんは皆と合流して一緒にいてね」
本格的な調査は、後続の応援が来てからになる。そっちの人は冒険者協会所属の本職なので、私の出る幕はない。
「ん、いた。特に変わってない」
話している間に階層ボスの所に到着した。結構な速度でここまで来たのに、理恵さんの息は乱れていない。さすが姉御だ。
「確かにエルダーリッチね。周囲に敵影なし。やるわよ」
「了解。ファイアエンチャント」
作戦通り、私と理恵さんの武器に普通のエンチャントを掛けた。エンチャント(微)じゃない方だ。あとは私のファイアアローを合図に2人で突っ込んで、その後は流れで。
「よし。やってちょうだい」
「ファイアアロー・ダブル」
しおりちゃんと愛里ちゃんの魔法をこれでもかと観察した結果、一度に2本までは出せそうだったからやってみた。無事成功して良かった。
炎に包まれるエルダーリッチ目掛けて走り寄ると、燃え盛る影がどさりと崩れ落ちた。リッチやゴーストの追加もなし。
「ん、倒せました」
魔石もドロップしてる。これは後で理恵さんと山分けかな。あ、それとも証拠品として押収されるのかな。その場合って売却金はもらえないよね。
「あー……、うん、倒せたからヨシ! 6階層に行くわよ」
「了解」
6階層の調査自体に、私は全く役に立たなかった。そもそも痕跡って何? 枝の折れ方? 足跡? わかんないです……。
私は〈スキル〉頼りのお狐美少女なのだ。レンジャーでもストーカーでもない。
役割分担して、痕跡の調査は理恵さんがやって、モンスターの察知・たまに討伐を私がやることにした。これなら〈スキル〉で何とかなる。
「時間ね。戻りましょう」
けれど、20分という短い時間では有用な情報は得られず、帰還となった。あとは冒険者協会の本職の人にまかせる。お願いします。
6階層の帰り道、何だかもやもやした違和感が胸につっかかっている。何かおかしい気がするのに、その何かが形にならない。
「うーん……」
「どうしたの?」
「何か、違和感があるような、気がする?」
「感覚っていうのは意外と大事よ。どこに違和感があるの?」
「全体? いつもと違うような、普通のような」
なんとも気持ち悪い。こういうときは気合だ。形にならないもやもやをギュギュッと固める! ふんっ!
「むむむ! あ、わかった。モンスターが少ない」
「モンスターが……、なるほど。階層ボスで事実上封鎖されていたのに、明らかに5階層に比べてモンスターの数が少ないわね。ちっ、まずいかもしれない」
そう。そうなのだ。理恵さんが全部言葉にしてくれたけど、そういうことだ。モンスターは倒さずにいるとどんどん密度が増えていくはずなのに、この6階層はモンスターの数がかなり少ない。
「ごめんなさい明ちゃん、予定変更よ。7階層まで偵察に行くわ。そこから先は何があっても明ちゃんには帰還してもらう」
「わかりました」
この6階層の状態が、この先でも同じかどうかを調べるわけだ。理恵さんに余裕がなくなっているように見える。私に言えない情報を加味して、今の状況に関連して悪い予想が立っているのかも。
よし、ここは力をセーブする場面じゃない。〈呪符〉を解禁しよう。ただし、〈呪符〉はバレないように張り付けて、単なるバフスキルということにする。これで敏捷を上げて、移動を効率化する
「理恵さん、私の〈特殊スキル〉を使う。バフでスピードが上がります」
「〈特殊スキル〉、そんなこと教えていいの?」
「理恵さんにだけね」
「わかったわ。絶対に誰にも言わないよ」
〈特殊スキル〉というのは、文字通り特殊なスキルのこと。習得条件や使用条件が特殊で、冒険者によっては切り札的に使うこともある。
「スピードアップ・ダブル」
何の意味もない呪文の合間に、こっそりと理恵さんの背中に〈呪符〉を張り付ける。私はまだまだ余裕があるので必要ない。
「これは……、驚いた。本当に2倍くらいになってるんじゃないの?」
「これなら短時間で偵察ができます」
「そうね。7階層まで往復する時間で10階層まで行けそうだわ」
「ん、私も行きます」
「ありがとう、助かるわ」
途中、バフの効果時間が切れたという小細工を1度入れて、10階層までやってきた。結果は、6階層と同じく、どの階層もモンスターの数が少ないというもの。
「本格的にまずいわね……」
ますます理恵さんの余裕がなくなっている。ここまで来れば、私にも予想はつく。理恵さんが懸念しているのは、『スタンピード』の発生だ。
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