第21話 姉御がいたなら情報共有で
〈気配察知〉をフルに使って、一度もモンスターに出会わず〈ダンジョンポータル〉へと戻ってこれた。行きに狩りまくったのもある。
1階層へとポータルで移動し、そのままダンジョンを出て、受付へと向かった。ダンジョンの異常は、『ダンジョン災害』の前兆になっていることも多く、情報収集を行う専用の受付があるのだ。
「冒険者の根岸です。ここのダンジョンの異常について情報が――」
「あれ? しおりちゃんたちじゃない」
「理恵さんっ」
声を掛けてきたのは、理恵さんだった。どうしてここにいるんだろう。今日は日曜日なので、普通の勤め人はお休みだ。やっぱり冒険者協会はブラックなんだろうか。
でもちょうど良かった。知らない仲ではないし、冒険者協会所属でそれなりの立場っぽいから、ダンジョンの情報は理恵さんに渡せばいい。
「しおりちゃん、理恵さんに聞いてもらおう」
「理恵さんにですか?」
「ん。理恵さん、ダンジョンがちょっと変だった」
「そう……。わかったわ。この子たちの話は私の方で聞いておくわ。ええ、部屋を貸してくれる?」
奥の会議室のような部屋へと入り、まずは理恵さんが話を切り出した。
「私からも皆に話があったからちょうど良かったわ。ひとまず、しおりちゃんの話から聞きましょう」
「はい。つい先ほど、5階層の階層ボスと遭遇しました。けれど、通常のボスとは異なるモンスターであったため、すぐに帰還し、受付で情報を提出しようとしていました。映像はこれに」
しおりちゃんから渡されたドローンを、会議室のプロジェクターにつなぐ理恵さん。
しおりちゃんと愛里ちゃんのハイテンション部分はさくっと飛ばし、肝心の階層ボスの場面へ。
「これは、無理に挑まなくて正解ね。これは『エルダーリッチ』、Aランクダンジョンで見かけるモンスターよ。リッチやゴーストを使役するから、1匹だと油断すると痛い目を見るわ」
そういう系か。個ではなく、群れでくるパターン。オタク的知識で考えるなら、範囲攻撃で殲滅するか、仲間を呼ぶ前に一撃必殺するか、どちらかだね。
「よし。一旦ここのダンジョンは立ち入り禁止にするわ」
ピピっとDギアを操作して指示を飛ばす理恵さん。軽く言っているけど、そんな権限あるんだ。これは相当上の地位に就いているんじゃないかな。どうして臨時パーティーなんかに入っているんだろう。
「次は私の話ね。この前捕まえたストーカーなんだけど、身元がわかったわ」
ああ。そういえばいたね。愛里ちゃんの衝撃がでかすぎて、ちょっと忘れてた。
「冒険者でもあるけど、実際は『ダンジョン審判教』の過激派よ」
「『ダンジョン審判教』?」
「まさか!?」
「しおりちゃんは知っているようね」
私たちの中で唯一しおりちゃんだけが大きく反応した。私も名前くらいは聞いたことがある。なんか、あれでしょ、最後の審判がどうとか。そういう感じの宗教。
「はい。冒険者協会に所属することも考えていたので、勉強した知識にありました」
「あら。しおりちゃんなら大歓迎よ」
さすがしおりちゃん、しっかり者だ。でも冒険者協会はブラックっぽいから気を付けないとダメだよ? 理恵さん曰く、お給料は良いけどね。
「何か危ない宗教なんですか?」
「私が調べた限り、人為的に『ダンジョンブレイク』を引き起こしたとか……」
「ええっ!?」
愛里ちゃんの質問にしおりちゃんが答えた。本当なら狂ってるとしか言いようがない。人類の敵と言っても間違いないでしょ。
「大きな声では言えないけど、本当のことよ」
うわぁ……、理恵さんが言うんなら本当のことなんだろう。そんな危険なやつらがいるっていうのがちょっとショックだ。
「そんなことがあったのね……」
「ちょっと待ってください。その関係者が僕たちや明さんをストーキングしてたんですかっ?」
悠ちゃんの指摘ももっともだ。そんな危ない連中に狙われる理由なんてあっただろうか。前にも考えたけど、私の交友関係はすごく狭い。変な輩と知り合う機会なんてないよ。
「言えない情報もあるんだけど、明ちゃんたちが目的でないのは確かよ」
「わかりました。聞かないでおきます。当面は安全だと思っていいんですよね?」
「そうだ、って言えれば良いんだけど」
なんとも奥歯に物が挟まったような言い方だ。言えない情報ってやつのせいだと思う。
「とりあえず、しばらくは皆で固まっていて。できれば『世界冒険者月間』中はそうしていてほしい」
その言い方だと、まったく安全って感じがしないよ。皆の顔も不安そうだ。
「あと明ちゃんはこのあと私とダンジョンに行こう」
「え、どうして?」
「5階層の『エルダーリッチ』を討伐しに行くわよ」
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