第19話 紹介したならお友達で
臨時パーティーのお休み2日目。
今日は、というか今日もダンジョンへ来ている。お休みとは?
「き、緊張してきましたっ」
「大丈夫。皆良い人だから」
愛里ちゃんを連れて来たのは、臨時パーティーでもお世話になっている〈亡霊ダンジョン〉だ。
目的は、愛里ちゃんを臨時パーティーの皆に紹介すること。
耳と尻尾を隠せるようになり、自由を手に入れた愛里ちゃんには早速お友達を増やしてもらおう。このために昨日Dランクダンジョン踏破証をゲットしたのだ。
「ん、いた。おーい」
「明さん、おはようございます。そちらが山本さんですね」
「は、はい! 山本愛里です! 明さんにはいつもお世話になっておりましゅっ」
「愛里ちゃん慌てすぎだよ」
初めて顔合わせしたときの悠ちゃん以上に余裕がなくなってるね。
「初めまして。私は根岸しおり、この臨時パーティーではリーダーをやっているわ」
「私は中内有希。よろしくね、愛里ちゃん」
「僕は中内悠です。有希ちゃんとは双子です。あと男です。仲良くしてくださいね」
「よ、よろしくお願いしますっ」
ひとまずのあいさつを済ませ、私たちは近くの喫茶店でお茶をしながら自己紹介の続きをすることにした。
「え? 明さんと愛里ちゃんは、お二人ともご両親がいらっしゃらないんですか?」
「ん、そうだよ」
「はい」
私も愛里ちゃんも転生してこの世に来ているので、だいたい同じ境遇にある。両親がいない点も同じ。
ここで言う『両親がいない』というのは、文字通り『存在しない』のではないかと予想している。あえて言うなら、女神様が母親かな。
カバーストーリーとしては、児童養護施設に捨てられていて両親は不明。義務教育を終えたので、施設を出て一人暮らし中、といったところ。
愛里ちゃんとは施設は一緒、学校は別なので、施設で仲良くなったという設定にした。理恵さんには駅での一件を見られているけど、そこは愛里ちゃんが成長していてすぐに気付かなかったとごり押しだ。
「そんな事情があっただなんて」
「私も愛里ちゃんも全然気にしてないよ。ね?」
「はい、全然気にしてません」
そもそも、この世界で16歳まで育つ間の記憶がないから、気にしようがない。
「わかったわ。2人が気にしてないなら、私も気にしない」
「1人暮らししているんですね。寂しくないんですか?」
悠ちゃんの疑問に、改めて少し考えてみた。
この世界に転生してから3ヶ月くらい。ようやくこの世界にも慣れてきたように思う。
1人でいることには慣れているけど、それが楽しいかというと、別にそんなことはない。
臨時パーティーを組んでダンジョンに入るのも、愛里ちゃんと一緒に森を駆けるのも結構楽しかった。
「寂しくはないけど、皆といると楽しいよ。だから愛里ちゃんも連れてきたの」
「私はかなり寂しかったので、明さんがいてくれて良かったです!」
おおぅ。愛里ちゃんは寂しかったようで、元気よく宣言している。
「これからは僕もいますからね、愛里ちゃん!」
「はい、悠ちゃん!」
2人の相性は良いみたい。手を取り合って、キャッキャと笑っている。
「仲良しなのは良いことです」
しおりちゃんと頷き合った。
お互いの自己紹介が終わったころには時間も経っていたので、まずは昼食をとって、その後に〈亡霊ダンジョン〉へと入ることに。
愛里ちゃんは初めて入るダンジョンなので、じっくり1階層からの攻略だ。パーティー内での役割は、中衛の遊撃。
遊撃と言っても、実際はパーティー戦闘に慣れることが優先の様子見といった感じ。たまに〈水魔法〉でゴーストを打ち抜いたり、エンチャントしたこん棒でゴーストを殴ったり。
「愛里ちゃんは、魔法を使うのが上手ですね」
「そうですか? しおりさんも制御がすごい綺麗ですよ」
ここで新事実なんだけど、愛里ちゃんの〈エンチャント〉は、私と同じ転生特典のスキルなのにオーバーキルにならない。
というか、威力の調整がしっかりとできるらしい。
あれ? 私の魔法は?
どうやって調整しているのか、愛里ちゃんに聞いてみたところ。
「術式に流す魔力量を調整すれば簡単にできますよ?」
「?」
?だ。魔法って、何か不思議パワーでえいやとやれば発動できるんじゃないの? 私はずっとそうやってきたんだけど。
「〈呪文〉はそうですね。全自動といった感じです。そこから調整をするなら半自動、愛里ちゃんがやっているのは、ほぼ全手動です」
「?」
こっそり愛里ちゃんが教えてくれたところによると、私たちの〈火魔法〉や〈水魔法〉は、全手動の魔法らしい。それを女神様がスキルとして全自動で使用可能にしてくれている。手動を自動ってややこしい。
で、本来は手動だからいろいろと面倒くさい設定やら調整やらがあるはずが、全自動でやってくれているので調整が利かない。だから私の〈エンチャント〉は威力がバカ高い。
「術式を理解するのが、優秀な魔法使いの第一歩です」
うん。無理そう。でも一応言われるままにやってみた。
「やっぱり無理」
人には、得手不得手がある。
それに、私は〈エンチャント〉の威力を下げる技を既に会得している。エンチャント(微)だ。それでいいじゃないか。
「少しずつ指導は続けていきましょう」
「私も手伝います。きっと明さんにも、いつかわかってもらえます。……たぶん」
「魔法組は大変だね」
1人だけ魔法を覚えていない有希ちゃんが、私たちを見て笑っている。高みの見物というやつだ。いや、いっそ巻き込んでみたらどうだろう。
「有希ちゃんも魔法を覚えよう」
「え? それは、どうかな。前衛の練習に集中したいし」
「賛成です! 有希ちゃんが自分で〈エンチャント〉できるようになれば、すごく楽になると思うんです」
悠ちゃんからの援護射撃だ。そう、〈エンチャント〉に限って言えば、前衛の役割から逸脱することはない。ということは、前衛の練習に集中したいという有希ちゃんの言葉からも逸脱することはない。
「いいですね。今度術式のテキストを持ってお家に伺いますね」
「はい! いつでも来てください」
「しょうがないわね……」
しおりちゃんと中内姉弟は、家が近く、お互いに遊びに行く仲だ。この臨時パーティーが終わった後も、そのまま3人でパーティーを組むことが決まっている。
私は抜けてソロに戻る予定だったけど、愛里ちゃんが加わったので、2人でパーティーを組めるようになった。
本当は5人でぴったり1パーティーを組めれば良かったんだけど、転生特典スキルを自由に使うためにはしょうがない。
私も含めて、もっと強くなって、スキルに違和感を持たれないくらいになれば、自由にパーティーを組んでも大丈夫だろう。
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