第17話 実践するなら早々に

「うむ。なかなか似合っておるぞ」


「そ、そうっスか?」


 うまいこと丸め込んだ愛里ちゃんを〈狼ダンジョン〉に連れ込み、キャラ付けのための衣装を〈水魔法〉で作らせた。〈水魔法〉も〈呪符〉に負けず便利だね。


 普段ダンジョンに入るための装備だと、真神(まかみ)と愛里ちゃんが同一人物だとすぐにバレてしまう。〈変身〉スキルはないけど、〈アイテムボックス〉を使って、一瞬で装備を変えることはできる。


 今の愛里ちゃん、もとい、真神の装備は、白地に青が入った狩衣(かりぎぬ)だ。無理に和風にこだわる必要はなかったんだけど、愛里ちゃんの希望でこうなった。ちなみに烏帽子はつけてない。


「動きにくくはないのかえ?」


「これって、実はパワードスーツみたいなもんっス。なので、いつもの装備よりよっぽど動きやすいっスよ」


 ほほう。物質操作系の〈水魔法〉ならではといったところか。私の〈狐火魔法〉でもできそうではあるけど、体と干渉する部分には漏れなく呪符を張り付けないとダメそう。


 そんなことするくらいなら、〈身体強化〉込みで動いた方がよっぽど楽ちんだ。


「あとは移動用の足を作るだけじゃな。狩衣で走り回るのは避けたいじゃろ」


「そうっスね。玉藻さんは狐を出してましたよね」


「うむ。ほれ、このようにな」


 ぴょんと飛ぶと同時に狐型狐火を召喚し、呪符を張り付けてその上へと座った。


「おおー! すごいっス!」


「ふふふ、これも玉藻の前として必要な技術よ。して真神よ、どのような足にするのじゃ?」


「悩むっスね。玉藻さんと合わせるなら犬っスけど、水と言ったら『龍』ってイメージなんスよね」


「龍か。良いではないか」


 川を龍に見立てた水龍とか、割と一般的だと思う。川が氾濫したときは、龍が暴れておるのじゃ、ってね。


「ちょっとやってみるっス。むむむむっ」


 数秒目を閉じてイメージを固めたのか、カッと目を開いた真神が右手を掲げた。良いね、そういう意味深な動き良いよ。


「出でよ、水龍!っス!」


 地面から湧き出るように青く澄んだ水龍が現れた。表面は水らしく揺れているのに、その形が一切崩れないのはすごく不思議な光景に見える。


 長さは5メートルほどで、太さは50センチ。2本の角があり、手には龍玉も持っている。細かいね。


「できたっス!」


「おお、触った感覚はスライムに近いのか。意外ともちもちしておるのじゃな」


「これなら上に乗った時も安心っス」


「うむ。足ができたことだ、次はダンジョン踏破といこうかの」


 一応の目的として、愛里ちゃんにDランクダンジョン踏破証を取ってもらうというのがある。今のままだと、Cランクダンジョンに入れないからね。


「妾が先行するでの。しっかりと付いてくるのじゃぞ」


「了解っス!」


 まずは常足でゆっくりとスタートする。後ろに続く水龍は、若干くねくねしながら前進を開始した。


 もう少しスピードを上げて、速足へと移る。水龍のくねくねは激しさを増し、上に乗っている愛里ちゃんの顔色はあまり良くなさそう。


「一度止まるぞ」


「うぅっ……、気分が悪いっス」


「あれだけ上下左右に揺れればな。動かぬようにはできんのか?」


「いやー、できるんスけど。それだと龍っぽくないなぁと」


「それで気分が悪くなっておっては本末転倒じゃろ」


「おっしゃる通りっス……」


 まあ、龍が一切微動だにせずスーッと動いていたら、気持ち悪いっちゃ気持ち悪い。それはわかる。けれど、もう少しやりようはあるだろう。


「そうじゃなぁ……。乗る位置を頭のすぐ後ろにして、頭だけは揺らさぬようにしたらどうじゃ。それか揺れる頻度を少なくするか」


「ちょっと試してみるっス」


 どちらも試してみた結果、頭を揺らさない方法は、見た目の気持ち悪さは緩和されるものの、愛里ちゃん的にはノーだったようで、揺れの頻度を減らす方が採用となった。大体30秒かけて20センチくらい上下する感じ。


「これなら気分も悪くならないっス!」


 移動速度は、むしろ地上を走る狐の方が少し遅いくらいで、無人の野ならぬ無人の空を行く速度での移動が可能だ。これなら余裕を持ってダンジョン最奥まで行ける。


 あとは移動しながら魔法の練習をしつつ、魔石を回収しつつ進むだけ。


 たまに進行方向をちょーっと冒険者とニアミスしそうな方へと修正したり、階層ボスを水龍に絞め落とさせたり、階層ボスのリポップ待ちをしている冒険者を飛び越えたりして最奥へと到着した。


「いやー、楽しいっス!」


「うむ。森を駆けるというのは、なかなかのものであろう」


 途中テンションの上がった愛里ちゃんが、ワオンワオンしていた。きっと色々なストレスが溜まっていたんだろう。そういえば龍ってなんて鳴くんだろう? ガオー? ギャオー?


「最後もあたいがやっちゃっていいんスか?」


「良いぞ。折角のDランクダンジョンの踏破じゃからな」


「わかったっス! リューちゃんで一掃してやるっス!」


 龍だから、リューちゃん。安易っ。愛里ちゃんが名前を付けたのに影響されて、私も狐型狐火に名前を付けた。その名は「ココ」、狐だからね。


 そんなことを考えている間に、愛里ちゃんはボスのエリートフォレストウルフたちを倒し終わっている。リューちゃんの口から出た水ビームで、宣言通り一掃だ。


「あっ! 宝箱!」


 おおー。私の時と同じように、宝箱が出た。もしかして、〈狼ダンジョン〉ってそういう設定なのかも。あとで調べたら全然そんなことなかった。


「罠があるやもしれぬ。気を付けて開けるのじゃぞ」


「了解っス! リューちゃん、開けてほしいっス」


 スパン!と龍ちゃんの尻尾が一閃され、宝箱の蓋がすごい勢いで開いた。テンション上がってたのかな。


 警戒して距離を取っていた愛里ちゃんが、開いた宝箱に突っ込んでいったので、やっぱりテンションが上がっていたんだろう。おそらく初めての宝箱だろうからね。


「中身は、素材っス! 〈黒鋼〉インゴット5kg、〈マジックアイテム〉じゃなくて残念っス」


 中身は素材アイテムだった。売ればそれなりのお金になる。これは初攻略のお祝いということで、全額愛里ちゃん行き。そして無事Dランクダンジョン踏破証ゲットだ。


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2024/04/01 玉藻の前の一人称を「妾」に変更

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