第15話 耳と尻尾を隠すなら気合で?

「はっ! 今日は、耳と尻尾を隠す方法を教えてもらうんでした!」


「ん、そうだった」


 もふもふに頭をやられて、完全に忘れてた。危ない危ない。


 鋼鉄の意思でもって、愛里ちゃんの尻尾から手を離した。代わりに自分の尻尾を前に持ってきて、抱きかかえておく。うむ。


「じゃあ教えるね」


「はい!」


「まずは、耳と尻尾をしっかり意識して」


「しっかり意識する……」


「それで、ギュギュワンっとしたらシャー。これで隠せるよ」


「?」


「? わかりにくかった?」


 ポイントは、ギュギュワンっとするところだ。ギュッでもギュギュッでもない。そうしたら後はシャーとするだけで簡単に隠せる。


「あの……、もう少し具体的に教えてもらうことってできますか?」


「すごく具体的だったと思うけど。うーん……。耳と尻尾をギュッとしようとすると、ススーって逃げていくでしょ。だからギュギュワンって一気に行かないとダメ。ギュギュッとじゃ力不足。わかった?」


「わかりました」


「良かった」


「わからないことがわかったので、一度耳と尻尾を隠す瞬間を見せてもらっても良いですか?」


 あ、そういうことね。結構わかりやすい説明ができたと思ったんだけど、愛里ちゃんには理解できなかったみたい。ちょっと不器用なのかな?


「じゃあ隠すね」


「はい。お願いします!」


「ほい」


「……なるほど。予想通り魔法に近い現象ですね。術式は無属性、階層は4つ、二重反転循環に抑止の強制、獣人の固有魔法とでも言うべきものなのでしょう。これに自力で気付けた明さんはすごいです!」


「?」


 何語ですか? 何を言っているか良くわからないけど、愛里ちゃんには得るものがあったみたい。あと多分だけど、褒められてると思う。


「これなら私にもなんとかできそうです」


「ん、がんばって」


「いきますっ。んーっ、むっ、んんーっ! ぷはぁっ! どうですか!」


「ん、ダメ」


 ダメです。見た所、力の入れ具合が足りない。ギュギュワンに足りない。それじゃあ成功しないよ。


「もっと気合を入れてやらないとダメ」


「き、気合ですか」


「そう。私も簡単にやっているように見えて、気合を入れてる。ほい。ほらね?」


「気合……、そうか、精神力ということですね! 循環と抑止の結合には正の魔力ではなく負の精神力! すごい発想です!」


「?」


「もう一度やってみます! んーっ、ほい!」


 気合を入れた愛理ちゃんが、もう一度トライした。力の入れ具合は十分で、掛け声とともに水色の耳と尻尾は消え去り、残ったのは黒髪の美少女だけ。


「成功したね」


「消えてます? 消えてますね! やったー!」


 うんうん。やっぱり足りなかったのは気合だったね。


「出すのはできる?」


「はい! 理論はばっちりなので、もう出し入れ自由です!」


 出して、入れて、また出して。確かにもうばっちりだ。


「これで自由に活動できるね」


「本当にありがとうございます、明さん! 人目に付かないように移動するのも、ダンジョンに入るのも大変で……。ううっ、ぐすっ」


「大変だったね。よしよし」


 一人で頑張るのも不安だったんだろう。堰を切ったように泣き出してしまった。きっと、転生前はまだ子供といった年齢だったんじゃないかな。


 元大人として、胸を貸してあげようじゃないか。


「よしよし、もふもふ、よしよし、もふもふ」




「すみません、泣き出しちゃって」


「ん、大丈夫。私たち転生仲間でしょ」


「転生仲間、えへっ、はい!」


 うんうん。ひとしきり泣いて、落ち着いたみたい。これでゆっくりお話ができる。


 転生を経験した貴重な仲間だ。色々と聞きたいことがある。というか、愛理ちゃんは私のことを知っていたようだけど、まともに自己紹介もしていない。


「まずは自己紹介をしよう」


 名前は、山本愛理(やまもと あいり)ちゃん。年は私と同じで16歳。転生前も同じ年だったらしく、やっぱりまだまだ子供だ。


「女神様からはどんな〈スキル〉を貰ったの?」


「私が貰ったのは、『異世界三種の神器』です!」


 翻訳すると、〈鑑定〉、〈アイテムボックス〉、〈人語理解〉の3つ。


〈鑑定〉は対象の〈ステータス〉を閲覧できるというもの。これで耳と尻尾がバレた。試しに私の〈ステータス〉を見てもらったら、ぴったり一致した。


〈アイテムボックス〉はマジックバッグのすごい版で、生物以外ならなんでも入る。容量は最大MPに依存し、中は時間停止のおまけ付き。こんなんチートや。


 最後の〈人語理解〉は、人の言語を理解できる。理解できるだけで話せたりはしない。〈アイテムボックス〉の魂の容量に占める割合が多く、泣く泣くこれにしたとか。もっと良いのだと〈言語マスター〉というのがあって、全ての言語を操れるらしい。


「あとは『三種の神器』以外に〈水魔法〉も貰いました。異世界にお風呂があるとは思っていなかったので……」


「愛理ちゃんも、テンプレ中世風異世界だと思ってたんだね」


「そうなんです。〈人語理解〉をとったのも、いじわるな設定だと言葉が通じないこともあるので」


 愛理ちゃんはなかなか転生モノについて造詣が深いようだ。


「転生したときの妄想をしたり?」


「うっ……、し、してましたっ。運動が苦手だったので獣人一択です!」


「だからお犬様にしたんだね」


 でもお狐様の方が良いと思うな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る