第14話 ケモミミあるなら転生者で

「狐耳と尻尾の隠し方を教えてください」


「!?」


 なんだって!? 耳と尻尾って言った? 慌てて頭に手を当てても、耳は隠れたままだ。


「明ちゃん?」


「だ、大丈夫です。なんでもありません」


 少し挙動不審になってしまったので、理恵さんが確認をしてきた。でもこれは聞かれていい話題じゃない。理恵さんには申し訳ないが、まだ2人きりで話をさせて欲しい。


「驚かせてすみません。でも、私も同じなんです。私にも耳と尻尾があるんです」


 再度の驚きは、なんとか内に隠せたと思う。


 耳と尻尾。少なくとも転生してすぐに調べた範囲では、そうした特徴を持った人はいなかった。生活していく中でも見かけたことはないし、存在しているという話も聞かない。


「あなたも?」


「はい。大っぴらにするのはまずいと思って隠しています。ですが、前田さんのように隠せてはいません。帽子と上着で無理やりです」


 なるほど、野球帽を被っているのはそういうことか。私が初日に外へ出た時と同じ感じだ。


「どうして私がそうだと分かったの?」


「それについては私の〈スキル〉です」


 これはまずい情報かもしれない。私の耳と尻尾は、見た目的にはきれいに消えているが、〈ステータス〉には状態異常として『耳・尻尾隠蔽』としっかり載っている。


 この山本さんの〈スキル〉が一般的なものだとすると、耳と尻尾の存在はすぐにばれることになるだろう。


 でもそれなら、山本さんが私に耳と尻尾の隠し方を聞くのは少しおかしい。耳と尻尾を確認した〈スキル〉が一般的なら、山本さんが私の方法で隠しても意味がないはずだからだ。


「確認した〈スキル〉は特殊なもの?」


「それについては前田さんにも確認したいことがあります。あの、『女神様』っていると思いますか?」


 耳と尻尾、スキル、女神様、この3つに関連することを私は1つしか知らない。


「もしかして……、転生?」


「っ、ふぅ……。そうです。やっぱり前田さんもそうでしたか。誰かに確認したのは初めてだったので、緊張しました」


 あー、合点がいった。山本さんは、私と同じように獣人に転生し、女神様からスキルをもらったんだろう。


「転生仲間ってことね」


「いいですね、転生仲間っ。ここに来てから、ずっと1人だったので仲間ができてうれしいですっ」


 耳と尻尾を隠せていないんじゃ、私よりもよっぽど大変だっただろう。帽子は脱げないし、尻尾はもふもふで隠しづらいし、最近は温かくなってきたから、尻尾を隠すための厚着にも限界があったんじゃないかな。


「山本さんの事情は大体わかった。隠し方については教えてもいいよ」


「ありがとうございます! あと、愛里(あいり)って呼んでください!」


「愛里ちゃん?」


「はい、明さん!」


 愛里ちゃんは私と同じ16歳に転生していた。それなのに私の呼び方は「さん付け」なんだね。どうして?


「明さんは、明さんって感じなので!」


 うーん……。とりあえず、ここでの話し合いは終わりにする。これ以上深く話すにはちょっと場所が悪い。連絡先の交換だけしておき、後日、私が愛里ちゃんの家へお邪魔することになった。


「というわけです、理恵さん」


「そうなったのね。待ってる間に山本さんについて調べてみたけど、いたって普通の冒険者って感じだったわ」


「は、はい、何も悪いことはしてません!」


 理恵さんって、さらっとストーカーを捕まえたり、調査権限持ってたり、ぱぱっと情報調べたり、結構すごい人なのかな?




 臨時パーティーがお休みの日、約束通り愛里ちゃんの家へやってきた。私のマンションから、駅を挟んでちょうど反対側にある一軒家だった。


「明さん! ようこそいらっしゃいました。どうぞ上がってください」


「おじゃまします」


「本当にありがとうございます。これでようやく普通の生活が送れるようになります!」


 そう言ってこちらを拝む愛里ちゃんには、頭の上のピンと立った水色の耳と、ブンブン激しく揺れる水色の尻尾がくっ付いている。


「それが愛里ちゃんの耳と尻尾なんだね」


「はい、そうです。犬耳と犬尻尾です!」


 お犬様ということか。耳の形は私とよく似ているけど、尻尾は一回り以上小さい。このおかげで、今まで何とか隠しおおせてきたのだろう。


「あっ、明さんの耳と尻尾はどんな感じなんですか?」


「ん、こんな感じ。私は狐だよ」


「うわっ、出てきた! わぁ、尻尾がもふもふですね! すごいです!」


 うんうん。このもふもふのすごさが分かるかね。いつかはガンにも効くようになる。


「ちょっと、触ってみても良いですか?」


「別にいいよ」


「それじゃあ失礼しまして。ふわぁ……、すごい、ふわっふわ」


「んっ、くふっ、だめっ、ふふっ、これ、くすぐったいっ。もう終わり!」


「ああっ、もふもふがぁ」


 自分で触るときは全然そんなことないのに、なんだかとってもくすぐったい。尻尾を触られるのを嫌がる犬や猫がいるのも分かる。


「愛里ちゃんにおかえし。もふもふ、もふもふ」


「ふわぁ、気持ちいです。全然くすぐったくないですよぉ」


 なん……、だと? これじゃあお返しにならない。まあ、尻尾がもふもふで気持ち良いからいっか。

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