第13話 ストーカーなら2人目で

「明さん、大丈夫だったの?」


 ストーカーを捕まえた翌日、ダンジョンに集合するなり心配そうなしおりちゃんたちが寄ってきた。


「うん。理恵さんが助けてくれたから大丈夫」


 今日ダンジョンへ来る時も、理恵さんと一緒に行動している。しおりちゃんたちは家が近いらしく、念のため3人で移動したようだ。


「帰りもできるだけ一緒に行動してね。あと、何かおかしいと思ったら交番に駆け込んで。私の名前を出したら、それで通じるようにしておいたから」


「はい、わかりました。3人で帰るようにします」


「ありがとうございます、理恵さん」


「僕は男ですから、変な人避けに役立つと思います!」


 理恵さんは色々なところに顔が利くらしい。悠ちゃんは……、うん。


「ストーカーのことは一旦置いておいて、ダンジョンに入りましょう」


「ダンジョンの中の方が落ち着けるなんて、変よね」


「ん、モンスターは倒せばいいだけだから、対処が楽ちん」


「少し気持ちはわかるけど、気を付けないとダメだよ」


 ダンジョン内なら遠慮なく〈スキル〉も使えるし、ドローンでの録画もできる。何かあったときに取れる手段が多い。パーティーの皆が居るということも心強い。


 うっぷんを晴らす様に、今日はエンチャントを解禁させてもらった。


 ただ、私も進化している。今日のエンチャントは今までのものとは違う。言うなれば、エンチャント(微)だ。


 魔法を使う際、『最小の威力』というのがある。どんなに頑張ってもこれ以上威力が下がらない下限で、当然エンチャントにもある。私の場合、その下限がかなり上の方で、威力が高すぎるという問題があった。


 そこで発想を変えてみた。最小の威力は下げられないなら、あえて魔法の発動点をずらすという考えだ。


 例えるなら、1000度の炎で剣全体を炙っていたのを、1000度の炎で剣の先端1mmだけを炙るように変えた、という感じ。炎の温度は変わらないが、剣全体の温度変化は極微量のものとなる。


 これならエンチャントの効果が通常に比べて格段に低下する。これが、エンチャント(微)だ。


「まったく、器用な魔法の使い方をするね」


 理恵さんにも褒められた。このエンチャント(微)ならば、適度に魔法攻撃力が上がるので、わざわざ封印することもない。


 皆の武器にエンチャントすることで、しおりちゃんのMP消費も抑えられる。すると、休憩時間も減らせて攻略も進む。攻略が進むと――、


「合計で、23万3,500円です」


「「「おおー!」」」


 そうだね。お金も稼げるね。


 過去一番の稼ぎを、1日で更新してしまった。


「ふふっ、分配しますから皆さんDギアを」


 しおりちゃんも満足そうだ。


 良い気分で解散し、電車に乗ってマンションの最寄り駅へ。そうすると、もう慣れてしまった感覚がして、一気にテンションがだだ下がりだ。


「理恵さん、またみたいです」


「えっ、また? うーん……、明ちゃんって何かいけない匂いでも出るのかな?」


 何ですかいけない匂いって……。え、匂ってないよね? 冗談だよね? くんくん、くんくん。


「それは冗談だけど、本当に心当たりはない?」


「いいえ、全くありません」


 この世界に来てからの交友関係は、非常に限られている。外出したのも、ダンジョンか冒険者協会か東京アドヴェンチャーセンターくらい。


 駅から出ると、昨日のストーカーとは違い、一気にこちらへ向かってきた。声を掛けるつもりのようだ。


「こっちへ来るみたいね。少し脇に行きましょう」


「はい」


 2人で待ち構えていると、野球帽を被った女性が現れた。年のころは私と同じくらいで、背は私より高い。腕にはDギアを装着していることから、冒険者なのだろう。


「あ、あのっ」


「ちょっと待って、私は冒険者協会の者よ。あなたは冒険者かしら?」


 一直線に私の方へ来たので、用があるのは確実に私みたい。それを理恵さんが途中で割って入った。


「え、だ、誰ですか?」


「冒険者協会の後藤と言います。これが身分証。私には冒険者関連の犯罪を捜査する権限があるの。わかるかしら?」


「犯罪!? わ、私何もしてませんっ」


「落ち着いて。あなたはこっちの子に用がある様に見えたけど、この子はストーカー被害にあっているの。警戒するのは仕方ないでしょう?」


「ストーカー! 私じゃないです! ちょっと話がしたくてここで待ってましたけど、ストーカーはしてません!」


 見た所、普通の少女といった感じ。プロが本気で演技しているとしたら分からないけど、そんなプロがわざわざこんな風にやってくるかな?


「ということだけど、知り合い?」


 理恵さんが確認してくるけど、知り合いではない。たぶん初めて見る人だ。


「わ、私は山本愛里(やまもと あいり)といいます。前田さんのことは〈狼ダンジョン〉で見かけました。どうしても前田さんに助けて欲しいことがあるんです!」


「その助けて欲しいことって何なの?」


「それは……、とても個人的なことなので、前田さんにしか話せません」


「ふーん。ということだけど、どうする?」


 少なくともストーカーではなさそう。一度だけ話を聞いて、それでもう関わらないならそれでもいい。


「いいけど、話を聞くだけ。私が助けになるとは限らないから」


「大丈夫です。絶対に助けになります」


 なんだか確信を持って会いに来ているみたい。


「それじゃ、私は離れているね。何かあったらすぐに介入するから」


 理恵さんは声が聞こえない程度に離れた。


「単刀直入に言います」


 すぐに山本さんは話し始めた。もう待てないというか、切羽詰まった様子。


「狐耳と尻尾の隠し方を教えてください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る