第11話 溜まってるなら解消して

「〈ダークエンチャント〉! ユキ!」


「いくわ! ハァッ! ヤッ!」


「ラストです! 〈ターンアンデッド〉!」


「ん、周囲に敵影なし」


「ふぅ、お疲れ様です」


「うんうん、見事見事。それにしても、結構溜まってたみたいね」


〈亡霊ダンジョン〉の4階層まで来た私たちパーティーは、大量のゴーストに襲われていた。その原因は、モンスターのグループが連鎖的に襲ってくる『リンク』だけではなく、ダンジョン内のモンスターが狩られずに溜まっていたことだ。


 スタンピードの説明の際、ダンジョン内のモンスターを狩っていれば防げるという話をしたが、逆に全く狩らずに放置した場合、スタンピードが発生する。その期間は、およそ1年。


 定期的に冒険者協会によって手は入れられているが、それでも不人気ダンジョン故に、他のダンジョンと比べて十分とは言えない。


 そのため、4階層という浅い階層でも、大量のモンスターが出現してしまっているのだ。


「理恵さんから見ても、モンスターの数は多いですか?」


「そうね。事前に資料を確認したんだけど、それと比べて3割ほど多いわね。まあそれでも、今すぐスタンピードが起こるとか、そういう段階の話ではないから安心して」


 スタンピードが近づくと、どんどんモンスターの密度が上がっていく。そして限界を超えると、スタンピードの発生となる。それが〈門〉に到達してしまったら……。


「そうですか。ですが、あまり良い状況とは言えませんね。提案なのですが、少し重点的にモンスターを狩るのはどうでしょう」


「冒険者協会としては助かるけど、いいの?」


「私は賛成よ。浮遊型のゴーストは剣の練習にもなるし、稼ぎも悪くないしね」


「僕も、皆さんのお役に立てるなら賛成です」


「私も賛成」


 スタンピードとそれに続くダンジョンブレイクの被害は、言葉で表せない程ひどいものだ。冒険者試験の後にも、当時の映像を見せられる。この災害を防ぐことは冒険者としての責務のひとつでもある。


 それに、情勢が安定していないと、落ち着いて玉藻の前ロールプレイが楽しめない! 心の余裕があって初めて、ミステリアスな玉藻の前が輝くのだ!


 ちょっとふざけたが、ダンジョンブレイクは本当にひどい災害だ。少し予定を変えるだけで防げるなら、それが一番良いだろう。


「賛成してくれてありがとうございます。それでは明さん、索敵をお願いしますね」


「ん、〈気配察知〉。いた、あっち」


 じゃんじゃん狩るぞー!




「合計金額は18万9,500円です」


「「「おおー」」」


 私と中内姉妹――姉弟ともいう――の声が被った。しおりちゃんは概算ができていたのか、ひとつ頷いただけ。


 それにしても20万円近い。ソロでダンジョンに入っていた時も含めて、過去一番の稼ぎになった。5階層まででこれなので、深く入ればそれだけ稼ぎも増えそうだ。


 途中ゴーストが大量に溜まっているポイントがあり、そこで100体以上のゴーストを倒したのも要因だろう。


 その時は私のエンチャントも解禁して、というか、皆に私のエンチャントをかけて無双を楽しんだ。触れる側から倒せるので、飛び回るゴーストを追い回す、虫取りのような光景だった。


「4等分して入金しましょう。皆さんDギアを」


 理恵さんは冒険者協会から派遣されているので、臨時パーティーの報酬分配は無しだ。その分、協会からがっぽりもらっているらしい。本人が言ってた。


 分配も終わり、さあ帰ろうという時に、またも視線を感じた。


(これは、お買い物の時と同じ?)


「どうしました、明さん?」


「前に話した視線を感じる」


「ここでもってことは、冒険者の線が濃厚ね」


「ど、どこからですか?」


「ん、あっちの方」


 私の言葉に悠ちゃんが勢いよく振り返ってしまった。あっ、視線を感じなくなった。


「悠、ダメじゃない。そんなにあからさまに確認して」


「いえ、視線の主にもこちらが気付いていると示せたでしょう。これであちらも警戒して動きが鈍くなると思います。そのまま諦めてくれたら一番ですね」


「ん、悠ちゃんも気にしないで」


「は、はい。次は気を付けます!」


 次はない方が良いけど、こっそり確認する悠ちゃんも見てみたい。私としおりちゃんは密かに目線を交わし、頷き合った。多分同じ気持ちだ。


「それでは今日は解散しましょう。明日からはもう少し奥へ行って、そこでモンスターを狩ります」


「わかったわ」


「はい。また明日!」


「ん、またね」

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