第9話 またも視線の主は警備員さん?

 折角だから、ということで、購入した玉藻の前ファンセットに着替えてその後のショッピングを楽しんだ。


 店員さんも、「宣伝ありがとうございます!」というような笑顔をしていた。


 あの和ロリがテーマのお店は、今後も贔屓にしていきたい。ちなみにお店の名前は『流々(りゅうりゅう)』だ。


 で、少し考えたんだけど、玉藻の前の巫女服っていつまでも同じものじゃ、ミステリアスさが足りないと思う。「また同じ服を着てるの?」って思われたらショックがでかい。泣いてしまうかも……。


 ひとつ問題があるとすれば、あの巫女服は、ただの衣服ってだけじゃなくて、最低限の防御力を持った防具としての役割もあるということ。


 お店に聞いてみたら、そういう防具兼用の衣服は作っていないそうだ。ということは、自力で作るか、誰かに依頼して作ってもらうしかない。うーん、どちらも難易度が高そう。


 また、巫女服は〈変身〉スキルの一部であるので、破損したり汚れたりしても再変身すれば復元する。しかし、新しい服に着替えた場合は、当然その限りではない。ますます難易度が高くなってしまった。


 うーん、喫緊の課題ではないけれど、いつかは必要になることなので、考えておかないとね。


「服は明さんが満足いくものが買えたので、最後に〈マジックアイテム〉を見に行っても良いですか?」


〈マジックアイテム〉屋さんでは、たまに掘り出し物が見つかるそうだ。しおりちゃんの提案に従って、皆で行ってみることにした。


(ん? 視線を感じる)


 エスカレーターに乗って1階から2階に移動していると、初めて来た時と同様に視線を感じた。


 あっ、ふーん。もう私は焦らないよ。どうせまた警備員さんでしょ。えっと、確か、伊賀さん? 違ったかな?


 2階へついても視線は感じたままだった。ここから冒険者専用エリアに近づけば、視線の主――警備員さんが話しかけてくるはず。


(あれ、動かないぞ?)


 一向に視線の主が動かない。ただ見ているだけにしては、視線に意識が乗り過ぎている。何らかの目的を持ってこちらを見ていることは確かだ。


 チラリと盗み見てみると、視線の方向には警備員さんはいなくて、少し離れた所に立っていた。警備員さんじゃないとしたら、誰だったんだろうか?


 もう視線は感じなくなっている。少しモヤモヤしたものを抱えつつ、皆について〈マジックアイテム〉屋さんへと入った。


「誰かの視線を感じた、ですか?」


「ん。そう」


「明さんが可愛いから……、ってわけじゃなさそうね」


 そういう類の視線はすぐに分かる。いいかい、男子諸君。もう一度言うが、そういう類の視線はすぐに分かる。気を付けたまえよ?


「そうですね……。明さんの強さを知っている人なら、勧誘目的かもしれません」


「そっか、そういう理由もあるか。何度かパーティーに誘われたこともあるよ」


「明さんはとっても強いですからね。僕も頑張らないと!」


 むん!と、ハイカラさんな悠ちゃんが気合を込めた。何故か悠ちゃんも着替えているのだ。


「『世界冒険者月間』中に強引な勧誘はないかと思いますが、一応注意しておきましょう」


「ごめんね。私のせいで」


「明さんは悪くないわ。それにパーティーの仲間でしょ」


「そうですよ、明さん。有希ちゃんの言う通りです」


「ありがとう、みんな。えへへ」


 仲間って良いね。そんな皆に隠し事をしているのは少し心苦しい。この世界に獣人がいっぱいいれば、私も堂々と耳と尻尾を出すんだけどね。


 何かそういう〈マジックアイテム〉ないかな?


 気を取り直してお店を見て回った。新しい槍を買うことを考えたら、〈マジックアイテム〉を買う余裕はないんだけど、いろいろな効果のアイテムがあって面白い。


〈目覚めの鈴〉、音を聞いた者の睡眠の状態異常を解除する。自然な睡眠には効果がない。


〈風見鶏のかんざし〉、周囲の風の動きを把握できるようになる。ただし風見鶏の動きが目に見えなければ効果がない。


〈変身ベルト〉、各種変身ポーズが自然とできるようになるベルト。ポーズだけで実際に変身はしない。


 なんだそれ?というような〈マジックアイテム〉もある。見ているだけで面白いので、しおりちゃんが来たがるのも分かるね。でも余計なアイテムを買おうとするのはどうかと思う。


「しおりちゃん。〈変身ベルト〉なんて買っても仕方ないでしょ? 棚に戻してきなさい。ダーメ、さっき僕と約束したでしょ、もうっ」


 悠ちゃんに怒られてる。有希ちゃんと悠ちゃんの双子は、生活面ではほぼ悠ちゃんの独壇場らしく、無駄遣いには結構厳しい。


 しおりちゃんは趣味の人で、あまりの浪費傾向に悠ちゃんが口を出した形だ。臨時パーティーを組んでからの儲けを全部つぎ込もうとしていたので、止めるのもやむなし。


 結局、見た目の可愛らしさと、何かの役に立つ可能性もあり、〈目覚めの鈴〉だけを購入となった。


「もー、しおりちゃんにこんな一面があったなんて」


 腰に手を当てて、ぷんぷんと怒っている悠ちゃん。可愛いね。


 店を出てからは、気になる視線はなく、解散してそそくさと自宅へ。


「耳と尻尾を開放! おおー、玉藻の前とは違うけど、普段の姿もなかなか可愛い。むふふ、やはり和ロリとお狐様の相性は最強!」


 もう何着か買っておこうかな?

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