第5話 初パーティーでも踏破したい

「追加、正面方向、骨人2」


「〈ダークアロー〉! 一時的にアキが抑えて! ユウ、集中攻撃! リエは周囲を警戒! ユキ、一気に倒してアキに合流するわよ!」


 私の索敵結果を受けて、しおりちゃんの鋭い指示が飛ぶ。ダンジョン攻略中は少しの無駄も省くため、名前は短く呼び捨てだ。名前が3文字だった私としおりちゃんは、それぞれアキ、シオと呼ばれている。


「はい! 〈ターンアンデッド〉!」


「吹っ飛びなさい! ハァッ!」


「新手はなしみたいだね」


「アキ、ユキとスイッチ!」


「ん、交代」


〈墓ダンジョン〉は、主にアンデッド系のモンスターが出現するダンジョンだ。骨と呼ばれるスケルトンは、人型、犬型、鳥型と様々で、骨の後に人やら犬やら、その形を付けて呼ばれる。


 他には、ミイラやゾンビなども出現し、ゾンビはその見た目から敬遠されがち。幸いなことに、腐ったゾンビではないため、匂いはそれほど気にならない。


 パーティーの顔合わせの日、苦手なモンスターはいないと内心思っていたけど、臭い匂いのモンスターは無理だ。思い返してみれば、〈関東局ダンジョン〉のボスのであるゴブリンと戦った時、ひどい臭いに結構ダメージを受けた。


 これからは、臭い匂いのモンスターはダメだと言うようにしよう。


「セイッ!」


 有希ちゃんの一撃で最後の骨人が倒された。〈墓ダンジョン〉の下層ではよくある『リンク』と呼ばれる現象で、複数のグループが連鎖的にこちらへ襲ってくることがある。合計で5グループ、14体のモンスターとの連戦となった。


「『リンク』の対応も良い。私を温存したまま倒しきるとは、やるじゃないか」


「理恵さんに頼ってはパーティー攻略になりませんからね」


 眼鏡をクイッと上げながら、しおりちゃんが答えた。実際、理恵さんが戦うとなると、リンクする前に殲滅が完了するので、今とはだいぶ違う感じになるだろう。


「パーティーの人数が増えるととても楽ね」


「うん。僕たち2人だとすぐにMPが切れちゃうもんね。しおりちゃんの魔法はすごいよ」


〈墓ダンジョン〉に出現するモンスターは、魔法にとても弱い。というか、物理で倒そうと思うと手間がかかると言った方が適切かも。体の大部分を砕かないと倒せないのだ。


 魔法だとそうはならず、魔力的なダメージが何かうまいこと効いて楽に倒せる。原理は知らないけど、そういう仕様なのだ。


「私としては明さんの索敵に助かっています。これで戦闘もできるんですから、Cランクダンジョンのソロ攻略も納得です」


「えへへ。ありがとう」


 一度、戦闘能力がどんなものなのかと、戦っている様子をみんなに見せた。骨人3体に対して、突っ込んで槍でつんつんするいつもの戦法を試したところ、無事私も理恵さん側の扱いを受けている。つまり、過剰戦力だ。


「それでは一度ダンジョンを出て、反省会とダンジョン踏破を目指すのか話し合いましょう」


 すでにパーティーでのダンジョン攻略は3日目だ。〈墓ダンジョン〉の15階層に到達し、最奥部の20階層にあと一歩のところまで攻略は進んでいる。


 ダンジョンから出た私たちに色々な視線が飛んできた。女の子5人――ただし1人は男の娘――パーティーだしとても目立つ。けれど、6月の『世界冒険者月間』ではマナーの悪い強引な勧誘などはほとんど行われない。


 考えてみれば、冒険者協会から派遣された冒険者がどのパーティーに混じっているのか分からないから、下手なことはできないんだろう。言い方は悪いが、爆弾みたいなものだ。ただし爆弾はマナーの悪い冒険者にしか影響しない。


「休憩スペースに行きましょう」


「僕は飲み物をもらってくるよ」


「私も手伝う」


「悠ちゃん、明さん、ありがとうございます」


 悠ちゃんは男の娘なのに少し危機感が足りない。いや、男の娘だからか? 今やパーティーのマスコット的存在で、しおりちゃんにも悠ちゃんと呼ばれている。


 私も「ちゃん付け」で呼ばれる流れが来ていたんだけど、戦闘能力を見せてからは「さん付け」になった。解せぬ。


「明さん、手伝ってくれてありがとう」


「ん。一人だと大変だからね」


 臨時パーティーを組んでから、周りの様子がより一層わかるようになった。なんというか、パーティーを組んでいる雰囲気やソロの雰囲気がなんとなく分かる。


 あそこのおじさんもきっとソロ冒険者だ。


 パーティーが多かった〈狼ダンジョン〉で私が目立っていたのも、今思えばこういうソロ特有の雰囲気があったからなんだろうな。ひとつ勉強になった。


「はい。飲み物を持ってきましたよ」


 ひとまず皆で一服し、今後の方針を話し合う。


「できれば踏破したいわ」


「そうですね。私は十分可能だと思います。明さんから見てどうですか?」


「大丈夫だと思う。もちろん、パーティーとして言ってるよ」


 私の攻撃力だけを考えるんじゃなく、パーティー攻略という意味でも十分踏破は可能だと思う。


「明さんにそう言ってもらえると、自信がわいてくるね」


 両手を胸の前でむん!と握る悠ちゃん。そんなんだからマスコットになるんだよ? でもかわいいので良いと思う。


 そして翌日、私達は無事Dランク〈墓ダンジョン〉を踏破した。


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