第2話 気を付けるならダンジョン災害に

 ダンジョンには、主に3つの危険があると言われている。


 1つ、モンスター。これは当たり前のお話。冒険者がダンジョンへ入る目的であり、魔石の入手先だ。


 2つ、罠。特に高難易度のダンジョンでは顕著で、しっかりとした対策が必要になる。誰が設置しているのかは不明。不思議だね。


 そして3つ、『ダンジョン災害』だ。


 4つ目に人間関係を挙げることもあるんだけど、人間関係が問題になるのはダンジョン外でも同じなので、省かれることがほとんど。


 話を戻して。


 『ダンジョン災害』とは、先に説明したように通常とは異なる現象を指す。


 通常いないモンスターが現れるイレギュラーモンスター、階段が違う階層につながるストレイダンジョン(あるいはストレイフロア)など。しかし、最も有名なのは『スタンピード』及び『ダンジョンブレイク』だろう。


 なにせ、日本では義務教育で習う。


『スタンピード』とは、ダンジョン内のモンスターたちが、一挙に〈門〉を目指して移動すること。そして『ダンジョンブレイク』とは、スタンピードが〈門〉に到達し、〈門〉が開いて地上にモンスターが溢れることをいう。


 スタンピードがダンジョンブレイクにつながると、それはもう悲惨な状況になる。幸いにも、ダンジョン内のモンスターを狩っていさえすれば、スタンピードは防ぐことができる。


 しかし、ダンジョンが出現した当初はそんなことを知るはずもなく、様子見を決め込んだ多くの国がダンジョンブレイクの被害にあった。壊滅的な被害を受けた国もある。


 ちなみに日本だが、時の政府がオタク知識を当てにしてスタンピードを予見し、積極的にダンジョン攻略に乗り出したため、ダンジョンブレイクの被害は皆無であった。オタク知識で支持率爆上げである。


 スタンピードの危険が世界に知れ渡ってからは、ほとんどの国が対策に乗り出し、発生を抑制することに成功している。だが、ごくまれに誰にも発見されずに放置されたダンジョンが、ダンジョンブレイクを引き起こすこともある。


 今なおダンジョンブレイクの危険は確かに存在しているのだ。


『6月は世界冒険者月間』この言葉を最近よく目にする。


 6月は、世界で初めて起こったダンジョンブレイクが終息した月だ。毎年この月は、ダンジョンブレイクの被害を忘れず、また、スタンピードを防ぐためのダンジョン集中攻略月間でもある。


「冒険者協会日本支部・関東局主催のダンジョン攻略かぁ」


 関東局でもダンジョン攻略のイベントがある。イベントに参加すると、買取金のボーナスや、提携店の割引、臨時パーティーの斡旋など、様々なメリットがあり、割と人気だという。


 ここで組んだ臨時パーティーがきっかけで有名になった冒険者もいて、一種の登竜門的な役割もある。臨時パーティーには冒険者協会の選出した高ランクの冒険者が1名配置されるので、パーティー初心者にもやさしい。


「玉藻の前で参加するのはなしだよね」


 いたずら心でちょっとやってみたい気もするけど、さすがに自重する。いくら隠したとしても、Dギアとペアリングしている冒険者証を見られると、一発で前田明だとバレる。参加するなら普段の姿でになるだろう。


「参加してみようかな。お友達欲しいし」


 結構切実な悩みだ。ソロで冒険者をやっていると、お友達ができない。転生して過去も真っ白なので、まともに会話したのって、ミミミちゃんを助けた時くらいだよ。


 いくら秘密が多いからって、さすがにこれはまずいでしょ。一匹狼ならぬ、一匹狐だ。ふふっ……。


 端的に言って寂しい。悪いかっ!


「申し込みの前に冒険者証の情報を更新しておこう」


〈ステータス〉は基本的に自己申告である。冒険者証に記録されている情報を元に、冒険者協会はイベントの臨時パーティーを作る。


 私は冒険者試験の時から更新していないので、このままだと超初心者パーティーに入れられてしまう可能性がある。それはちょっとまずい。今更FランクとかEランクダンジョンにパーティーで行っても楽しめそうにない。


「あとついでにCランク冒険者の試験も受けてみようかな」


 玉藻の前のお披露目のあと、〈巨人ダンジョン〉は踏破してある。Cランクダンジョン踏破証がもらえたので、Cランク冒険者の試験を受けることは可能だ。


『世界冒険者月間』を控えたこの時期は、私と同じような動機でCランク冒険者試験を受ける人も多く、関東局ではいつでも試験ができるよう、常に試験官をおいている。行ってすぐ試験を受ける、というのは無理にしても、予約をすればそれほど待たずに試験自体は受けられるのだ。


「空いてるのは、2日後の午前。よし、予約しちゃお」


 冒険者になってからまだ2か月弱。こんなに早い昇格はなかなかないんじゃないだろうか。冒険者協会の人の反応を想像して、ちょっと楽しくなった。

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