第1話 隠し事するなら落ち着いて
【まえがき】
2章開始です。よろしくお願いします。
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「むふ、むふふ。みんなが噂してる。テレビでもやってる。謎の狐巫女だって。むふふふ」
私の名前は前田明(まえだ あきら)。狐耳美少女に転生したら、転生先がダンジョン有の現代ファンタジーだっただけの狐耳美少女だ。
この世界には獣耳や獣尻尾を持った獣人はいない。それなのに話題になっている謎の狐巫女とは、私のことです。
正確には、〈変身〉スキルによって、金髪金眼の玉藻の前フォルムになった私だ。変身前は、黒髪黒目で背もお胸様も小さい。もちろん耳と尻尾はついているけどね。
狐耳美少女になったことや〈変身〉スキルは、転生する際に女神様にもらった特典だ。他には、火(狐火)を使う魔法の〈火魔法(狐火魔法)〉、鉄扇で戦う〈鉄扇術〉、いろいろと便利な〈呪符〉を転生特典スキルとしてもらっている。
ダンジョンが出現している現代ファンタジーの世界で生活費を稼ぐために、大変お世話になっております。
「おおー。玉藻の前って言及してる記事もある。妖怪が実在した可能性、他の獣人が居る可能性もあると。むふふ、ミステリアスで不思議でしょうー」
私が狐耳美少女になった理由、それは『ミステリアスな玉藻の前ロールプレイがしたい』、その一心に尽きる。
「あー、ミステリアスな玉藻の前ロールプレイでしか摂取できない栄養を、今いっぱい摂れている!」
すっごく楽しい!
つい先日、『火剣のミミミ』というダンジョン配信をしている冒険者の配信に、玉藻の前として映り込んだため、こんなにも話題になっているのだ。
『火剣のミミミ』というチャンネルは、私も良く見ているチャンネルだ。その配信に玉藻の前が現れた時の反応を見ていると、にやにやが止まらない。
「ここですぐ次の情報を出すのは簡単だけど、まだ焦るような時間じゃない」
できるだけ、じっくり楽しみたい。正体が分からないミステリアスさを楽しめるのは今この瞬間だけなのだ。
様々な議論があり、風潮があり、考察がある。そこに少しずつ波紋を広げるように、情報を小出しにしていく。うーん、ミステリアスだ!
「むふ。あーだめだめ、にやにやが止まらないよー」
尻尾に顔を押し付けても、我慢できずににやにやが沸いて出てくる。でもしょうがないよね。
玉藻の前としての姿を晒した後でも、私は〈巨人ダンジョン〉に来ている。同じタイミングで来なくなったら、関連性を疑われそうだ。
あの日以降、このダンジョンにやってくる人がすごく増えた。
元々、ベテラン冒険者には、稼げるしスキルも上がるしで人気があった。増えたのは、野次馬が6割、勧誘目的が3割、残りはその他。
今、残りのその他の人に連れられて話をしている。
「お時間いただきありがとうございます。冒険者協会関東局、ダンジョン災害対策室の加藤と申します」
「あ、はい」
お相手は、冒険者協会の職員さんです。目が見えているのか心配になるくらいの糸目で、フィクションならいかにも何かを企んでいそうな感じ。
「すでに告知されていますが、先頃、ここ関東33ダンジョンにてイレギュラーモンスターが出現・討伐されました。そのことについて、皆さんにお話を伺っております」
『ダンジョン災害』とは、主にダンジョン内で発生する通常とは異なる現象のことを指す。
ミミミちゃんが遭遇したイレギュラーもその内の1つだ。
「イレギュラーモンスターが出現する場合、その前後に同じような事象が発生していることも少なくありません。こちらのダンジョンでは、少し前に不審な尻尾を持つモンスターらしき影も確認されています。何かお気づきの点などありますか?」
「んっ」
不審な尻尾を持つモンスターらしき影って、“匂わせ”活動中の私じゃない? 確か、DXでそんな話題が出てた。イレギュラーモンスターじゃないかとも。
下手なことを言って、怪しまれるのもまずい。ここは知らぬ存ぜぬで通そう。
「いえ、特に気になったことはないです。その、モンスターらしき影?も見たことないです」
「そうですか。もう1つ、巫女服を着た女性探索者についてお聞きします。あの日、前田様もダンジョンに入場されていましたね。何か見かけませんでしたか?」
おうふ。ダンジョンの入場履歴が確認されているようだ。まあ隠してもいないし、隠せるものでもない。
「いえ、何も。緊急信号が届く位置にはいたんですが、向かうか迷っている間に解決したようです」
緊急信号の受信履歴は、Dギアにしっかりと残る。なので、あまり迂闊なことは言えない。また、受信したからと言って、必ず助けに向かわなければならないというわけでもない。最優先は自分の命だ。
「なるほど。ありがとうございます。もし何か思い出した点、気付いた点がありましたら、こちらの連絡先か関東局までお願いいたします」
「はい。わかりました」
「本日はお時間いただきありがとうございました。イレギュラーの出現もありますし、十分お気を付けください」
「はい、ありがとうございます。失礼します」
ふいー。なんとか終了した。ダンジョンに入ろうと来ていて、何の心の準備も出来ていなかったので、少し焦った。
法律的には何もやましいことはしていないので、これで不利益を被ることもない。と思う。しばらくは大人しくしていようかな?
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