第25話 遭遇するなら緊急信号で
「むふ。むふふ。なってる。噂になってる。むふー!」
【ハッシュタグ:巨人ダンジョン】でDX(有名なSNS)の投稿を確認していると、謎の存在を発見したという投稿が散見されるようになってきた。
ふっ、私はすでに、DXの使い方をマスターしているのだよ!
まだ“匂わせ”初期のため、お狐様の正体に言及する投稿はない。しかし、鋭い考察では、目撃したとされる尻尾の位置が高いため、巨大な獣かイレギュラーではないかという説もある。
イレギュラーとは、イレギュラーモンスターの略で、通常そのダンジョンでは出現しないモンスターのことを言う。また、そのイレギュラーモンスターの出現自体をイレギュラーと言ったりもする。
「実際は、お狐様だけどねー。むふふ」
あー、良い。謎のミステリアス玉藻の前ロールプレイでしか得られない栄養が確かにある。
「ま、イレギュラーというのも分からなくもないか」
ある意味イレギュラーが出現していると言っても間違いでもない。その理由は、玉藻の前の新しい移動方法にある。
それが、〈狐火魔法〉と〈呪符〉による、『狐召喚魔法(1人乗り)』だ。
仕組みは単純で、〈狐火魔法〉で出した自由に動く狐型の狐火に呪符を張り付けて、その上に乗っているだけだ。魔法にも張り付けられる呪符って、本当にすごい。便利。
呪符を狐型狐火の全身に張り付けて、呪符狐にすることもできる。結構な枚数が必要だから、MPコスパは悪い。あと見た目もツギハギでちょっと悪い。
そういう理由で、未確認情報の中に不思議な狐の情報が加わり、イレギュラーと疑われているわけだ。ミステリアスさに拍車がかかって良いぞー。
「ん、ふわぁ。今日はもう寝ようか」
DXを眺めていると結構な時間がたっていた。次から次へと投稿があり、なかなか止め時が見つからない。ダンジョン配信動画を見ていたときも若干寝不足になったので、ちゃんと気を付けて節制しないとね。
「明日も“匂わせ”がんばるぞー。おやすみ」
翌日。午前中のオーガ狩りを終え、午後に玉藻の前での活動だ。
今は玉藻の前で活動する場を20~25階層まで下げている。この辺りの階層に来るのはベテランの冒険者がほとんどで、“匂わせ”の成功率がとても高いのだ。少しの違和感に良く気付いてくれるので、こちらとしてもやりやすい。
折角近くに行っても、気付いてもらえなかった時の悲しさといったら……。
「嫌な記憶は忘れるに限る。ほい」
〈狐火魔法〉で大型の狐を作り出し、呪符を張り付けてその上へと座る。魔法で生み出した炎は不思議と熱くはない。
「さて、今日も行くか」
青白い狐に横座りしたお狐様。うーん、ミステリアスだ。
〈気配察知〉に冒険者が引っかかるまでは、このまま移動する。何もせずにいると暇なため、この時間を利用して〈狐火魔法〉の練習をしている。
狐火を浮かせたり、形状を変えたり、素早く飛ばしてみたり。その成果が〈魔力操作3(2UP)〉だ。これにより、以前は動かすのにも四苦八苦していた『狐召喚魔法(1人乗り)』を、滑らかに動かせるようになった。
前は結構ガクガク動いていたから、実はちょっと、腰にね……。
「この記憶も忘れてしまえ」
ついでに他のスキルも成長していて、〈気配察知5(2UP)〉、〈隠密4(1UP)〉になっている。〈気配察知〉は一流レベルだ。かなり広範囲の気配を感じ取ることができる。おそらく、獣人補正も利いていると思う。
「今日はなかなか冒険者に出会わんのう」
こんな時もある。それでも道中でオークやオーガを狐火で焼き、呪符ロープで座ったまま魔石を回収すればお金になる。一石二鳥!
そうしてしばらく進んでいると、左腕に着けたDギアがかすかに振動し、メッセージを受信した。
「ん? これは――」
そのメッセージは自動で展開され、送信者の名前と方向、距離を示している。それは『緊急信号』だ。
冒険者のHPがある一定割合を下回ったときに発せれる信号で、別名は救難信号。誰かが助けを求める信号である。
「名前は、南未玖、ミミミちゃんじゃと!」
とにかく移動を開始する。緊急信号の発信場所は、今いる22階層の端で、23階層に近いエリアだ。階段はモンスターが来ない一種のセーフエリアのようになっているため、わんちゃん23階層側から救援が来て、私が行かなくてもいい可能性もある。
移動しながら考える。私には2つの選択肢がある。
1つは、このまま玉藻の前で助けに向かう。転生特典スキルも使って、万全な状態で救助ができるだろう。
もう1つは、普段の姿に戻り、力をセーブして救助を行う。これなら玉藻の前の存在は隠せる。
「うーん。じゃが、ミミミちゃんのピンチに悠長なことはしておれんか。それに普段の姿で助けに入れば、それはそれで玉藻の前の“匂わせ”がかき消されるやも……」
ミミミちゃんは、かなり有名な冒険者だ。それを無名の少女が助けたとなれば、話題になるのは必至。DXの話題はそちらに流れることになるだろう。
それでは今までコツコツと積み上げてきた“匂わせ”が無駄になってしまう。
「ということは、人道的にも玉藻の前的にも選択肢は1つということか。ならば疾く向かうとしよう。狐よ、全速力じゃ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます