第24話 ミステリアスなら匂わせで
Cランク〈巨人ダンジョン〉3日目。
昨日は、予想通り、リーダーオーガとエリートオーガの2匹と戦えた。リーダーオーガは通常種とほとんど一緒だったけど、エリートオーガは強かった。
拳のキレが違う。
流石に力をセーブしていては危ないと感じ、〈呪符〉を解禁。目立たないように、自分へ敏捷上昇のバフを張り付けた。そうすると通常種と同じ雰囲気になったので、呪符1枚がエリート相当の強化幅になるのかも。
スキルの成長も順調で、まともな戦闘はオーガとの2戦だけだったのに、〈槍術3(1UP)〉、〈身体強化3(1UP)〉になった。(オークはウルフと同じく一突きで終わってしまう)
これには、私のスキルレベルがこのダンジョンに対して低すぎたこともあると思う。
スキルレベルを公言している人は少ないが、なんとなくの雰囲気を感じ取ると、〈巨人ダンジョン〉の適正スキルレベルはパーティーだと4くらい。ソロなら5だ。
一流か、一流に足がかかった人が来るダンジョンに、スキルレベル2で挑んだものだから効率が良かったんだね。やはり獣人、お狐様の力は偉大なり。コヤンコヤーン!
そして3日目の今日。主にオーガと戦っていくわけだが、もう1つ狙いもある。それがこれだ。
「変身! さて。そろそろ私の存在を“匂わせて”いこうかの」
お狐様の“匂わせ”だ。一応言っておくけど、くんかくんかじゃないよ?
ミステリアスの条件とは何か。普段の様子が分からない、思いもよらない登場、手玉に取るような言動、圧倒的力、などなど。
その1つが、存在の“匂わせ”だ。
不思議な存在として、何かがいるかもしれない、誰かの意思が介在しているかもしれない、そうやって暗に存在を匂わせることで、その後のミステリアスさがより一層際立つのだ。
これは、チラリズムにも通ずるものがある。全部隠されているより、ちょっと見えてる方が関心を集める――、エッチな話じゃないよ?
Dランクダンジョン以下では、お狐様の存在には役不足だった。Cランクダンジョンというそれなりの難易度のダンジョンへ入れるようになったため、満を持しての“匂わせ”だ。
で、1つだけミステリアス的問題がある。
それが、ダンジョンギア――Dギア――どうするの問題だ。
ドローンでの撮影はしない。これはいい。別に撮影が強制されているわけでもない。しかし、Dギアの着用は義務だ。法律で決まっていて罰則もある。
玉藻の前がDギアを着用する。うーん……、ギリギリだ。結構ギリギリでミステリアスに踏みとどまっている気がする。
「なんだあのお狐様は!? でもDギアつけてるよ?」こうなるわけだ。うーん、ギリギリだ。
「目立たぬ白色にしておいたが、正解じゃったな」
冒険者になった際、何色かから選べたので、できるだけ目立たないように白色にしておいた。上からブレスレットとかすれば、もっと目立たなくなるかな。お狐様的には数珠もありか。
『仕様がないからDギアを着用する』という以外の案としては、Dギアに似せた腕輪を装備しておくという考えもあったんだけど、リスクを考えてボツにした。冒険者の法律違反には厳しい世界なのだ。
「それでは行ってみるか。今日はそうじゃな……、午前中だけ。午前中だけ冒険者の近くをそれとなく通ってみるか」
“匂わせ”は、そのさじ加減が大切だ。多すぎず、少なすぎず、良い感じの塩梅でそれとなく。もちろんそんな経験はないので、探り探りの実施になるだろう。
できれば反応を確認して“匂わせ”にフィードバックしたいが、ここまでSNSを全く触ってこなかったのが少々あだになった。どういう集まりがあって、どういう情報共有がなされているか、全くわからない。
有名なSNSに、DX(DungeonX)というものがあるというのは知っている。帰ったらアカウントを作っておかなきゃ。
「む。早速〈気配察知〉に冒険者の気配じゃ。これは……、パーティーじゃな。ふふふ、どんな反応が得られるか楽しみじゃのう」
始めは控えめなくらいが良い。例えば、一瞬だけ後ろ姿が見える、一瞬だけ尻尾が見える、それくらい。
〈巨人ダンジョン〉では見つかるはずのない狐尻尾だ。いろいろと憶測を生むだろう。
「ふふふ、楽しみじゃあ。おっとミステリアスミステリアス」
〈気配察知〉と〈隠密〉を駆使しながら、良い感じの立ち位置に向けて走っ――るのは止めて、優雅に歩いた。
「……移動方法も少し考えるか」
まだまだ課題は多い。
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