第21話 怪しい勧誘ならお断りで
「なあ、お前ソロだろ。俺たちのパーティーに入れてやるよ」
声をかけてきたのは、見るからにチャラそうで性格の悪そうで、ついでに頭も悪そうな男だった。
いい気分に水を差されたので偏見もあるかも。いや、やっぱり頭は悪いのは確実か。
まず、パーティーについて説明しよう。
基本的にはオタク知識的冒険者パーティーと一緒だと思ってもらえればいい。ダンジョンへ共に入る仲間のことだ。
人数は最大5人。これを超えると、戦闘をしてもレベルやスキルレベルが上がらなくなる。不思議だけど、そういうものだと思って納得して。ダンジョンなんて不思議なものがあるんだし、これくらい許容範囲でしょ?
それで目の前の推定頭の悪そうな男に話を戻すんだけど、この男、相当なマナー違反をしている。
1.入れてやるという発言
冒険者以前に人としてのマナーがなってない。
2.〈ステータス〉で名前を開示していない
パーティーを組むことを提案する際、〈ステータス〉で名前を開示するのが一般的だ。力を示すために、踏破証も開示することもある。
というか、ダンジョンという閉鎖空間に行くのに、名前も知らない人と同行するなんて普通しないでしょ。
3.俺たちのパーティーと言っているのに一人でいる
たちって誰? どこにいるの? それで何を判断できるっていうの?
4.契約書の準備もなさそう
パーティーを組むというのは、冒険者という仕事をしている人同士であれば、一種の契約だ。当然契約書が必要になる。
本来はきちんと前交渉して、場を用意して、契約を交わしましょうね、となる。
5.お夕飯の時間が押してる
こっちはさっさと帰ってお稲荷さんが食べたいんじゃい。じゃま!
「興味ないです。さようなら」
さっさと帰ろうと横をすり抜けたら、回り込んで道をふさいできた。
「俺がパーティーに入れてやるって言ってんだ。さっさと契約書にサインしろ」
あ、契約書はあったみたい。パーティーに入らないからどうでもいいけど。
でもやっぱりこの男は頭が悪いみたい。自分がどこにいるのか、誰が見ているのか、全く理解していない。
「君、事務所まで来てくれるかな。これは任意だが、断れば強制になる」
はい1名ご案内です。
〈門〉の外に買取カウンターを置いている施設には、こういう面倒ごとに対応する警備員さんもいる。頭の悪い男を連れ去ったのと別の人がこちらにもやってきた。
「災難だったね。一応話を聞かせてくれるかな。それほど時間はかからないと思うから」
「わかりました。一部始終をドローンで録画していたので、そのデータもお渡しします」
「ありがとう。話が早くて助かるよ」
当然、ドローンで録画してたよ。当事者の場合、隠し撮りは合法だ。これ、冒険者協会からもらった冊子に書かれてる豆知識ね。
冒険者は、危険な職業だ。この場合の危険とは、ダンジョンが危険であるということと、冒険者自身が周囲にとって危険ということ。それゆえに、冒険者には法を順守することが求めらる。
マナーという法の一歩手前が大事にされるのも、法を順守させるための方法なのだ。この前にも同じようにパーティー勧誘されたけど、その人はしっかりマナーを守っていたよ。
5分もかからずに開放された。
警備員さんが言うには、春はこういうマナーの悪い冒険者が一時的に増えるのだという。そういった冒険者はしばらくすると淘汰されるので、今だけの我慢だ。
「ふぅー、帰宅ー」
さてと、まずはお稲荷さんでメンタルを回復させよう。時間はそれほど取られなかったけど、精神的には何かを消費した気分だ。
「まむまむ。今日のお稲荷さんは上出来。おいし」
あまりにお稲荷さんの消費が多いので、最近は手作りしている。今日は作り置きだけど、出来立て熱々のお稲荷さんもなかなか良いものだ。
「ごくんっ。さて、今日の振り返りと、今後の予定を考えよう」
今日はDランクダンジョンの関東04〈狼ダンジョン〉を踏破した。これでDランク冒険者だ。Dランク冒険者になると、Cランクダンジョンへ入場することができるようになる。活動の場をCランクダンジョンへ移すのも一つの選択だろう。
ただし、入場するダンジョンは少し考えなければならない。
ソロで入ることを考えれば、安全マージンはできるだけ確保しておきたいし、とっておきの転生特典スキルは人の目があると使いづらい。もしものときは容赦なく使うけどね。
「ソロでも攻略できて、実入りも良いCランクダンジョンかぁ」
考えながら、半ば日課になりつつある『ダンチューブ』でのダンジョン配信動画を視聴する。観るのはもちろん、『火剣のミミミ』ちゃんの動画だ。
「今日もミミミちゃんはダンジョンに入ってたんだ」
ミミミちゃんは日中ダンジョンに入って生放送をしているので、観るのは生放送ではなくアーカイブと呼ばれる過去動画だ。
『あっ、宝箱がありました!』
ミミミちゃんが動画内で宝箱を見つけた。ソロで活動している彼女は、〈罠解除〉のスキルも持っている。少し手間取りつつも宝箱を開け、ポーションをゲットした。
生放送時のコメントでは残念がるものが多かったが、本人は回復手段が増えたと喜んでいる。
「あ、明日指輪の鑑定もあったんだった」
危ない危ない。それほど急いでいないとはいえ、未鑑定の〈マジックアイテム〉を持ち歩くのはよろしくはない。ちゃんとDギアにメモしておこう。
「よしよし。ミミミちゃんのおかげで忘れずに済んだ」
動画では、ミミミちゃんが新たに出会ったモンスターを倒すところだった。お相手は、一つ目の巨人のサイクロプスだ。
〈属性魔法【火】〉で大きな目を焼き、あとは〈剣術〉で足を切り、体勢が崩れたところをフィニッシュ。流れるような戦い方で参考になるなぁ。
『ここは本当にソロでやりやすいです。おすすめです』
「はえー。ミミミちゃんのおすすめかぁ。ん? ソロにおすすめって、私にもちょうど良いのでは?」
コメントは、ソロで攻略できるのはミミミちゃんくらいだと呆れかえっていた。
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