第20話 宝箱を開けるなら呪符で

「うむ。少し魔法がいまいちじゃったが、良しとするか」


 どことなくへろへろしているウインドウルフを鉄扇でぶっ飛ばし、検証――ボス討伐は終了した。


 ウインドウルフが〈ウインドボール〉を使える回数が10発と少なかったため、少し物足りない部分もあるがまずまずといったところ。


〈ウインドボール〉を〈火魔法(狐火魔法)〉で相殺したり、鉄扇で打ち返したり、実際にくらってみたり、最低限の検証はできたと思う。


 魔法を使えなくなってからは、エリートフォレストウルフと一緒に、〈呪符〉でのバフ・デバフの確認や魔法で攻撃したときの影響を検証した。


「あとは戻って反省会じゃな。む、あれは?」


 ウインドウルフが消えて、魔石がドロップした瞬間。ボス部屋の真ん中に大きな宝箱が出現した。


「おお、あれは宝箱か!」


 ダンジョンの中には稀に宝箱が出現することがある。階層のどこかに置かれていたり、ボスを倒した後に出現するが、基本的にはCランクダンジョン以上で出現するものであり、Dランクで出る確率はCランクよりも圧倒的に低い。


 宝箱の中には〈マジックアイテム〉が入っていることがあり、まさに一攫千金のチャンスだ。なお、使えないアイテムが出る確率の方が高い。


 そうは言っても宝箱だ。テンションが上がってしまうのも無理はない。舞い上がってしまわないのは、偏に玉藻の前に変身中だからだ。


「ほうほう。このような見た目をしておるのか。罠が仕掛けられていることもあるというが……、判別できんのう」


 罠の判別や解除には、〈危険感知〉や〈罠発見〉、〈罠解除〉などのスキルが必要になる。オタク的に言うと、シーフやレンジャーといった役職の仕事だ。


「できるだけ離れて開ければ大丈夫じゃろ。やはり〈呪符〉スキルは便利じゃのう」


 こういう時にも役立つのが〈呪符〉だ。


 呪符を宝箱のふたにペタリと貼り付け、反対側をこれまた呪符で作ったロープにつなげる。あとは遠くから引っ張ってやれば――、無事宝箱は開いた。罠は仕掛けられていなかったようだ。


「開いたの。さて、中身はと……」


 大きな宝箱に比べて、入っていたのは小さな銀色の指輪だった。広い底板に裸でちょこんと置かれている。


 パッと見では、あまり高価そうには見えない。宝石はなく、リングも細身で装飾はほとんどない。ただの銀の指輪だとしたら、数千円いけばいい方だろう。


 こうしたダンジョンから入手したアイテムは、まず〈マジックアイテム〉かどうかを鑑定する。これは簡易鑑定と呼ばれ、〈門〉に併設されている買取カウンターや冒険者協会、〈マジックアイテム〉販売店で出来る。


〈マジックアイテム〉だということが分かったら、さらに効果などを鑑定する、詳細鑑定が行われる。詳細鑑定は半ば義務のような扱いで、これを行っていない〈マジックアイテム〉の使用は厳しく罰せられる。学科試験でも出たやつだ。


「〈マジックアイテム〉でなくとも、記念にもらっておくかの」


 元の姿へと戻り、指輪とドロップアイテムを回収した。ボス部屋の奥へと移動し、ダンジョンコアで1階層へと戻る。これでDランクダンジョンの踏破証もゲットだ。


 それではお楽しみの買取タイム。指輪も気になるが、それよりも初めてのマジックバッグあり金策の結果の方が気になる。一体いくらになるだろうか。


「ご利用ありがとうございます。本日も買取ですね」


「はい」


 ここ2週間、〈狼ダンジョン〉へ通い詰めていたので、カウンターのお姉さんとも顔見知りだ。いつもありがとうございます。


「魔石はこちらへ。素材はありますか?」


「あります。それとこっちの指輪の簡易鑑定をお願いします」


「まあ。装備アイテムですか。大変珍しいですね。小さいアイテムなので、こちらでも簡易鑑定は可能です。大きければ、関東局でないと無理でしたね」


 お姉さんがちょっと驚くほどには珍しいみたい。あとは対応できる大きさに制限があるようだ。その情報は知らなかった。


「こちらの箱に入れて〈マジックアイテム〉かを判別いたします。〈マジックアイテム〉ならば緑色、そうでなければ赤色に発光します。1回の簡易鑑定で1つのアイテムを鑑定し、1回1,000円です。よろしいですか?」


 お姉さんが後ろから持ってきたのは、博物館で使われていそうな展示箱?のような底以外が透明な箱だった。その箱の中に鑑定するアイテムを入れるため、大きさに制限がある。


「はい。お願いします」


「作動させます」


 指輪を入れて、ポチリとボタンを押した直後、箱全体が淡い緑色でわずかに発光した。発光って全部が光るのね。


「おめでとうございます。〈マジックアイテム〉です。簡易鑑定書はこちらに。ここからの流れはご存じですか?」


「一応説明してもらえますか?」


 説明は知っているものだった。詳細鑑定をするために、指輪を関東局へ持ち込まないといけない。


「基本的に関東局の業務時間内であれば対応できます」


「明日でも大丈夫ですか?」


「もちろん大丈夫です」


「それなら明日行ってみます」


「かしこまりました。買取の精算もいたしますね。合計で178,000円です」


 おー! 過去最高額を更新した! マジックバッグなしの大体1.5倍くらいの稼ぎだ。このペースで稼げるなら、1週間で60万円稼げてしまう。なんという効率。


「Dギアにお願いします」


 慣れたもので、Dギアウォレットにポロロン♪し、大満足で帰宅――、


「なあ、お前ソロだろ。俺たちのパーティーに入れてやるよ」


 できなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る