第12話 視線の主は警備員さん
一番手の手袋を買うべく、ショッピングセンターの中を歩いていく。案内板によると、お目当ての防具は2階のお店で取り扱っている。
「む、なんだか視線を感じる」
獣人の感覚が、私に集まる視線を察知した。
これはもしや、あれですか? あれが起きちゃうんですか?
防具のお店のある2階の一角は、冒険者向けのお店が固まっている。冒険者証は武器の取り扱い許可証も兼ねているため、その一角には冒険者証がないと入れないのだ。
ドキドキしながらもエスカレーターから降り、お店へ向かって歩いていく。
まだ視線は感じる。むしろちょっと増えたかも。
周囲の気配を探ると、ひとりの気が高まるのを感じた。何かを“起こそう”とする、そんな気の高まりだ。
すまし顔で歩いているが、内心はドキドキだ。あっ、近づいてくる! 近づいてくるよ!
「君、ちょっといいだろうか」
「なんですか?」
すまし顔で振り向いた私の目に映ったのは――、
「こんにちは。私はここの警備員の志賀です」
警備員さんだった。
あっ、はい。冒険者です。冒険者証はこれで。あ、ちょっと情報を更新してなくて。はい、Eランクダンジョンをクリアしてます。あ、ダンジョン踏破証の部分を〈ステータス〉でお見せしますね。はい。あ、気を付けます。はい。はい、お気遣いありがとうございました。
「ふぅー……」
警備員さんが、背が低くて女性の私を気にかけてくれただけでした。
うわー、恥ずかしいよー! 顔から火がでそうだよー!
あれが起きちゃう?とか訳知り顔で……、うわー!
「黒歴史だよ……」
くっ、私は負けない! この羞恥に負けず、防具を買うんだ!
若干の速足でお店へと駆け込む。まずは手袋、そしてベストだ。
手袋はすぐに良さそうなものが見つかった。指まで完全に覆うタイプで、素材にはモンスターの皮が使われているらしい。店員さんが教えてくれた。
薄く柔軟で、しっかりしているのに着け心地も良い。代わりに防御力という面では劣るようだが、手袋として使う分には全く問題はない。
防御力が必要なときは、この手袋の上からガントレットなどを装備することもあるんだとか。へぇー、参考になる。
「ベストはこちらがおすすめですよ」
いろいろと世話を焼いてくれた店員さんに、そのままおすすめのベストも選んでもらった。
選ばれたのは、モジュール式?というカスタム性の高いベスト。アクセサリーを固定するための留め具が付いていて、必要に応じて収納バッグを取り付けていくらしい。
ほほぅ。これはカスタムしがいがありそう。
カラビナで小物を吊ることもできる? ふむふむ。中型収納バッグはこの大きさで、小型収納はこれと。縦型と横型もある。セットでお安く? ほう。
「お買い上げ、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
むふー。大変良い買い物ができた。何か必要になったらまたここに来よう。
総合防具店らしく、ニーパッドも購入できた。ベストの収納が十分あるのでウエストポーチは必要なくなったし、エルボーパッドはやっぱり邪魔だったので未購入。
あと見るべきものと言えば、ブーツとマジックバッグだけど。ただの頑丈なブーツは冒険者以外でも入れる1階のお店が評判が良いからそこで。先にマジックバッグを見てみよう。
マジックバッグは、オタク的知識の通り、見た目以上にものが入るバッグのこと。小さいものはマジックポーチとも呼ばれるが、機能は一緒だ。
こういった不思議な機能を持ったアイテムは、〈マジックアイテム〉と呼ばれ、ダンジョン内で稀に手に入る。
ほとんどの〈マジックアイテム〉は複製・作製に成功しておらず、その価格は入手難度に相応の高さになっている。
「0.2立方メートルのマジックバッグで100万円越えかぁ……」
高ぁい!
マジックバッグの有用性は、その容量だけでなく、中に入れたものがガチャガチャ動いたりしないという点もある。さらに、重さもある程度軽減される。
冒険者であれば、皆喉から手が出るほど欲しい一品なのだ。
今は諦める。だけどいつかは絶対に手に入れたい。だって、玉藻の前がごちゃごちゃアイテム持ってたら、ミステリアスさが下がっちゃうから! 玉藻の前用のものだけでも手に入れる!
はっ! 今思いついたんだけど、お胸様の間にマジックポーチを仕込んだら……、いやこれはちょっと方向性違うかな。やめておこう。
さて、残りはブーツだ。
「お客様の足のサイズですと、オーダーメイドかブーツ専門店で探されないと難しいですね」
「あ、はい」
ブーツはまた今度!
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