第10話 便利に使うなら呪符スキルで
――ガガッ!
開いた鉄扇の一閃で、ゴーレムの足が切り飛ばされた。返す刀――ではなく、返す鉄扇で、下がってきた頭部をこれまた切り飛ばすと、ゴーレムは魔石をドロップして消え去った。
「これもチートっぽいね。明らかに鉄扇の長さより、切れる長さが長いし。それに冷静になってみれば、なんで鉄扇でゴーレムが切れるの?」
それはね、チートだからだよ。
そんな自問自答をしてしまうほどに、〈鉄扇術〉は強かった。
殴打でゴーレムが弾け飛び、切断でゴーレムが切り飛ばされる。風を起こせばやっぱりゴーレムが弾け飛び、ついでにカマイタチまで発生するしまつ。
しかもそれらが、使いこなすとは言わないまでも、ちゃんと使えているのだ。
「〈鉄扇術〉はやっぱり強いなぁ。ま、〈呪符〉もそうだけどね」
〈呪符〉はどうだったかというと、やはりこちらも強かった。
まず基本的な使い方は、MPを1消費して呪符を作製する。この時、どういった効果を持った呪符にするかを決める。そして呪符を張り付けると、張り付けた対象に効果を発揮する。
呪符の効果には、バフとデバフの2種類があって、バフならば対象の能力を上げ、デバフなら対象の能力を下げる。効果は、1つの対象に1つだけだ。
防御力低下のデバフを付けたゴーレムに、ちょんと槍を突き出してみたら、あまりの軟らかさにつんのめってしまった。
あると思っていた抵抗がない。例えるなら、もう一段あると思って階段を踏みしめたら無くてガクンとなる、みたいな。わかってくれる?
「〈呪符〉の良いところは、強いだけじゃなくって、便利なところもだよね」
まずね、呪符って空中に浮くんですよ。
はい、簡易的な足場になります。立つだけなら2枚、力を入れて踏み込むなら3枚の呪符が必要になるけど、それでも消費MPはたったの3。
それだけの消費で、1歩とは言え空中を踏みしめられるメリットはとっても大きい。
「あと空中に立つって、とってもミステリアスだよね」
次にね、呪符ってものに張り付くんですよ。
はい、万能テープになります。しかも付け外し自由です。
これを応用すると、手と壁を貼り付けて壁を登ったり、細くねじってロープにしてぶら下がったり、フードと頭をくっつけてめくれないようにしたり、いろいろ便利に使えるんです。
「もうね。すっごい便利。最後に〈呪符〉スキルをとった私をほめてあげたい、いやほめる! えらい!」
ほんと儲けものというか、スキルって使いようだなって感じ。今後も、できるだけ柔軟にスキルの活用法を模索していきたい。
ということで、〈鉄扇術〉と〈呪符〉はだいたい検証できた。
「あとは大トリの〈変身(玉藻の前)〉スキルだね」
これには万全を期して検証したい。少しでも身バレする確率を下げるため、検証は最奥部のボス部屋で行う。
ボス部屋に入るには扉を通る必要があり、戦闘が始まるとこの扉が閉まるのだ。これで安全に検証できる。(※ただしボスが安全とは言っていない)
岩ダンのボスは、普通のゴーレムよりもごつごつした、ロックゴーレムというモンスター。すでに一度倒しているので、相手にするにも心配はない。
「足を1本もらっておけば、もっと安全になるかな」
スパンと鉄扇で足を1本切り飛ばし、これで安全性がグッと上がった。
「まずは変身! ふぅむ、やはり槍は消えてしまったのう」
姿を変える〈変身〉スキルは、持ち物も含めて玉藻の前に変わってしまう。これが便利でもあり、不便でもある。
「一部だけ残したりはできないものか。変身解除! 変身!」
やはり身に着けているとダメなようだ。床に置いておいた槍は消えずにそのまま残っている。
「逆に槍を持ったまま変身解除をすると、槍はどこに行くのかのう。……いや待て、これで槍が消えてしもうたら、泣いてしまうかもしれん。別のもので試すとするか」
結論から言えば、元の姿の時に身に着けていたものは元の姿に戻ると持っているし、玉藻の前の姿の時に持っているものはまた変身した時も持っている。
別々の姿で独立していて、それを切り替えているというイメージでよさそう。
「うまく活用すれば、疑似的なインベントリのようにも使えそうじゃ。だが、咄嗟に取り出したり、人目があるところでは使えんか……。ままならんのう」
次は、〈呪符〉でのバフが、変身前後で維持されるか。これも確認してみよう。
「バフはよしじゃ。〈ステータス〉を確認しておくかの。んん!? 〈ステータス〉の名前が、玉藻の前に変わっておるぞ!」
『名前:前田明(まえだ あきら)』が『名前:玉藻の前』に変わっている。
「そんなところまで変わるのか。細かいのう」
予想外の驚きはあったが、変身を解除すると呪符でのバフは消えていた。こちらは少し残念な結果だ。耳と尻尾の隠蔽も変身前後で影響がなかったから、落ち着いて考えれば予想できたかな。
あとは、空中に浮かせた呪符や、〈火魔法〉で作った火の玉が維持されるか。
これは維持できた。持ち物じゃないからかな。ただし、玉藻の前の〈狐火魔法〉で出した魔法は、元の姿に戻ると消えてしまった。狐火は玉藻の前専用だからしょうがないね。
「〈変身〉の挙動も、だいぶわかってきたね。変身! あとは〈狐火魔法〉でボスをちょいと炙ってやろうかのう」
青白い狐火が、一瞬でロックゴーレムを焼き尽くした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます