第9話 続々・検証するならダンジョンで

「Eランクダンジョン踏破証、ゲット!」


 いぇい! 無事、岩ダンを踏破した。〈ステータス〉にもちゃんとEランク踏破証がある。


「それといつの間にか新しいスキルが生えてる」


 確認した〈ステータス〉には、昨日なかったスキルが生えていた。スキル習得の通知なんて便利なものはない。


「〈隠密1〉、いつ生えたんだろう?」


 確かに関東局ダンジョンに比べて、若干こそこそしながら攻略した。通路の曲がり角では顔だけ出してチラ見したり、ゴーレムが2体いるときは同時に気付かれないように立ち位置を変えたり。


 逆に言えば、やったのはそれくらいで、気配を消そうーとか、隙を見て移動ーとか、そういう意識はまったくしていない。


 ネットの情報によると、新しいスキルを得るのはそれなりに時間がかかると書いてあった。


「例外のパターンかな」


 ただし例外はある。それが、元々習得していた技術がスキルとして生えてくるパターンだ。


 こういう人がいた。


 剣道を習っていた人で、冒険者登録をした。ただ、モンスターに近づくのは嫌だったので、最初は弓を持っていたそうだ。


 ダンジョン講習では〈弓術1〉スキルを得て活動を開始。モンスターにも慣れてきて、剣も使ってみようとダンジョン内でぶんぶん素振りしたら、すぐに〈剣術1〉が生えてきた。


 これが習得していた技術がスキルになるということ。


「私に置き換えて考えると、少なくとも前世で隠密の技術は持ってない。ということは、転生特典か獣人の特性か……。うーん、獣人の特性っぽいかな」


 獣人って隠密とか得意そうだし。あと、ダンジョン講習で〈気配察知1〉を覚えたのも同じ理屈で説明できそう。獣人って気配に敏感そうだし。


 他にも獣人っぽいスキルなら簡単に覚えられるかな?


「狐の獣人っぽいスキル。何かあるかなぁ。あっ、狐ってジャンプして狩りをするよね。動画で見たことある」


 気合を入れて思いっきりジャンプしてみた。


「おお、〈跳躍1〉が生えた! これ楽しい、もっとスキル覚えたい!」


 他には何かないか。


「くんくん! 嗅覚系はだめかぁ。聞き耳! 聴覚系もだめかぁ」


 何でもスキルになるかというと、そうでもないようだ。しばらくあーでもないこーでもないとやってみて、生えたスキルがこちら。


 〈身体強化1〉、全身に力を入れてみたら生えた。

 〈登攀1〉、壁をよじ登ってみたら生えた。

 〈軽業1〉、壁を蹴って一回転したら生えた。


「むふふ。今日だけで5つもスキルが生えた」


 これは大収穫だ。〈登攀1〉だけはちょっと戦闘中の使い道が思いつかないけど、それ以外のスキルはきっと役に立つ。


「それじゃあ次は〈火魔法〉の検証でもしようかな」


 検証を始める前にわかっている情報をまとめよう。


 まずそもそも、〈火魔法〉なんていうスキルは、公式には存在を確認されていない。あるのは、〈属性魔法【火】〉という別の名前のスキルだ。


 ネットのまとめによると、魔法の発動には呪文を唱える必要があって、スキルレベル1で〈ファイアボール〉、レベル2で〈ファイアアロー〉、レベル3で〈ファイアシールド〉、といった呪文が使用できるらしい。基本の消費MPはそれぞれ、2、3、4だ。


 私が転生特典で得た〈火魔法〉はどうかというと――。


 詠唱、必要ないです。使える魔法、イメージできればなんでも使えます。消費MP、一律1っぽいです。


「うん。完っ全に別物のチート魔法だ。あと検証のために魔法を撃ってたら、まーた新しいスキルが生えちゃったよ」


 〈魔力操作1〉が新しく生えた。


 これもさっきの元々持っていた技術理論でいくと、火魔法を扱える技術を持っていたから生えたってことかな。


 本来は、魔力の扱いがうまいから魔法を十全に扱えるはずが、転生特典で〈火魔法〉を得たから、逆説的に〈魔力操作〉が生えたと。


「これもチートっぽいねぇ」


 でも遠慮はしないよ。遠慮をしていては、完璧な玉藻の前ロールプレイができないからね。


 この〈魔力操作1〉だって、〈狐火魔法〉を使うときに絶対役に立つ。狐火をお供に現れる玉藻の前。うーん、ミステリアスだ。


「他の転生特典スキルは、〈変身(玉藻の前)〉、〈鉄扇術〉、〈呪符〉、あと〈狐火魔法〉。ここから何かスキルが生えてこないかなぁ」


 しばらく考え込んでも、いい案が思いつかなかった。


「うん。今考えるのはやめよう。考えるのはダンジョンの外でね」


 まだ検証したいことはたくさんある。幸いと言っていいのか、ダンジョンに入ってから一度も他の冒険者と出会っていない。このチャンスに検証を進めよう。


「まずは〈鉄扇術〉と〈呪符〉。それが終わったらいよいよ〈変身(玉藻の前)〉だ!」


 でもその前にお昼ご飯にしよう!

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