第7話 検証するならダンジョンで

 現代の冒険者となった私は早速ダンジョンに向かうことにした。といっても入るのは、つい先ほどまで講習を受けていたダンジョンだ。


 関東02ダンジョン、通称〈関東局ダンジョン〉。


 ダンジョンの難易度を表す〈ダンジョンランク〉は最低のFで、全5階層のダンジョンだ。


 出現するモンスターは最弱のスライムと最奥ボスのゴブリンの2種類だけ。なんともイージー。


「えい」


 プス!


「えいえい」


 プスプス!


 歩きながら槍をちょんちょん突き出すだけで、簡単に進んでいける。スライムからは、たまに小さな魔石がとれる。


 ネットにあった、有志によるモンスター図鑑にはこんなデータがあった。


――――――――――――――――――――

名前:スライム

強さランク:1(すごくよわい)

確定ドロップ:なし

確率ドロップ:魔石(極々小)

レアドロップ:なし

――――――――――――――――――――


 うーん、しょぼい。確率ドロップの魔石は本当に小さく、小指の爪よりも小さい。売値は100円だ。うーん、しょぼい。


 いやむしろ100円でも買い取ってくれるだけマシかも。絶対に買取カウンターの人件費の方が高いよ。


 それはそれとして、最奥の5階層に到着した。


 あまりにも簡単だったから説明し忘れていたけど、このダンジョンは自然洞窟型のダンジョンだ。薄暗くてぐねぐねしている洞窟を進んでいくタイプ。


 最奥のボスフロアは、ちょっと広めの大部屋になっている。


「あれがゴブリンかぁ……、くちゃい」


 まだ距離があるのに臭いがきつい! 獣人だから鼻が良く利くようになっているのもあって結構こたえる。近づきたくない。


「火魔法で、えい」


――ギャッ!


 ボフっと火の玉が直撃したゴブリンが一瞬で燃え尽きた。ドロップは極小の魔石が1個。それよりも臭い匂いがなくなったのが一番ありがたい。


「弱すぎて火魔法の強さが全然わからなかった……」


 ちなみにゴブリンのデータはこちら。


――――――――――――――――――――

名前:ゴブリン

強さランク:1(すごくよわい)

確定ドロップ:なし

確率ドロップ:魔石(極小)

レアドロップ:なし

――――――――――――――――――――


 スライムと大差ない強さだ。ただ、武器を持ったり、集団になるとまた評価が変わるらしい。とても臭いので私は関わり合いになりたくないです。魔石は300円なり。


 さて、ダンジョンの最奥にはボスがいて、さらにその奥にはダンジョンコアと呼ばれるとても大きな魔石が鎮座している。


 このダンジョンコアを回収すると、ダンジョン内にモンスターが出現しなくなり、ゆっくりとダンジョンが崩壊していく。そのため、無許可でのダンジョンコアの回収には、とても厳しい罰則が設けられている。


「ん、ちょっとヒンヤリしてる」


 人の頭ほどのダンジョンコアに手を触れると少し冷たい。脳裏には、ダンジョンコアを回収するか、ダンジョンから脱出するかの2つの選択肢が現れている。


 私は迷わず脱出を選択した。


 一瞬の浮遊感の後、私の体はダンジョンの入り口――〈門〉から入ってすぐの場所へと転移した。


 これでダンジョンの踏破が完了だ。


 脳裏に浮かんだ〈ステータス〉のダンジョン踏破証の項目には、しっかりとFランクダンジョンの文字がある。


「くふふ」


 思わずにやにやしてしまうのも仕方ないだろう。何せダンジョン踏破だ。とってもファンタジー!


「合わせて1,700円です」


「はい」


 ただし清算された魔石の売却額はとっても少ない。


 できれば、お金を稼ぎつつ、スキルの検証もできるダンジョンがいい。今日はいったん部屋に帰って情報収集をしよう。


 速足で部屋に戻って、まずは狐耳と尻尾を開放する。


「ん~、解放感」


 状態異常だからなのか、狐耳と尻尾を隠しているとちょっと窮屈な感じがある。冒険者になるための試験も無事終わったし、これからは部屋の中では開放していよう。


「さて、さっそく近場のダンジョンを調べてみよう」


 ダンジョンには、ダンジョンランクと呼ばれる難易度付けがなされている。今日入った関東局ダンジョンはランクFだ。


 Fは最も攻略が簡単なランクで、一番難しいものだとランクAになる。ちなみにAランクの上にSランクとかはないぞ。


 〈ステータス〉にも記載がある通り、ダンジョンランクは踏破時に確認できる。未踏破のダンジョンは推定ランクを付ける習わしだ。


「Fは簡単すぎるから、まずはEランクから行ってみようかな」


 日本には確認されているダンジョンが100ある。概ね人口に対して均等になるよう存在しており、人口の多い関東局エリアはダンジョンの数も多い。


 狙うのは人の少ないダンジョンだ。転生特典スキルの検証をしたいので、人が多いとちょっとまずい。


 ただ、人の少ないダンジョンはそれ相応の理由がある。例えば、儲けが少ない、モンスターが強い、ダンジョンの環境が悪い、などなど。


「これなんかどうだろ」


 私が目を付けたのは関東13ダンジョン。全10階層のEランクダンジョンで通称は〈岩ダンジョン〉。出現するモンスターはすべてゴーレムタイプのダンジョンだ。

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