第3話 お金を稼ぐならダンジョンで

 私は今、買い物のために外を歩いている。


 目深に被った野球帽で狐耳を隠し、ダウンジャケットで尻尾を隠して、外を歩いている。


 今は2月の初旬で、厚着していても違和感がないのが幸いだった。


 ダウンジャケットの下は、大き目のパーカーにデニムのショートパンツ。尻尾を出す都合上、ショートパンツが腰履きのようになっていてちょっと違和感がある。


 出前や宅配にしようかとも考えたんだけど、室内で尻尾を隠すほどの厚着をしていると、逆に怪しそうなのでやめた。


 ささっと外出して、ささっと買い物して戻ってくればいいのだ。


 コンビニの場所は事前にスマホで調べてある。私が住んでるマンションから徒歩数分のところだ。


「らっしゃっせ~」


 気の抜ける店員の声を聞き流しながら、ささっと買い物かごにお弁当を入れていく。


「あっ、お稲荷さん……」


 買っておこう。


「あっ、きつねうどん……」


 これも買っておこう。


 何故かお弁当以外も買い物かごに入っていたが無事買い物は終了。


 ちなみにレジ袋は無料だった。あとで考えてみれば、そんなことで遊んでる暇がなかったんだろうなとも思う。今の私はラッキーと思う程度。


「ありあっした~」


 気の抜ける声を背中に自動ドアをくぐると、ふとそばに置かれている情報誌が気になった。よくある無料のやつだ。


「これは……」


 そこに書かれていたのは、『あなたも、冒険者になろう!』の文字。


 すぐに1枚拝借して、急いでマンションへと戻った。胸がドキドキするのは、走っていたからではない。獣人の体はこれくらいでは何ともない。


 鍵を開け、部屋へと飛び込んだ。


「冒険者!」


『あなたも、冒険者になろう! 16歳から登録可能!』


 そんな見出しの情報誌には、冒険者とダンジョンについての情報が書かれていた。


「冒険者はいたんだ!」


 まるで何か大きなモンスターを発見した幼女のように情報誌を掲げてしまった。誰も見ていないけどちょっと恥ずかしい。


「詳細は、世界冒険者協会日本支部・関東局へ、かぁ」


 スマホを……、いやノートPCを立ち上げて、そちらで検索してみる。冒険者協会の公式ホームページはすぐに見つかった。


 色々と書かれているが、まず気になったのは冒険者だ。


――――――――――――――――――――

冒険者とは、ダンジョンへ侵入し、モンスターを討伐してドロップアイテムを集める者のこと。冒険者協会の試験に合格することで冒険者となれる。

――――――――――――――――――――


「ほほぅ」


 冒険者にダンジョン。現代だと思ったけど、しっかりファンタジーしているようだ。続いてダンジョンについての説明も見てみる。


――――――――――――――――――――

ダンジョンとは、2010年に突如発生した〈門〉の先につながる異空間のこと。内部には敵対的なモンスターがおり、モンスターを討伐することで魔石をはじめ様々な資源を得ることができる。

――――――――――――――――――――


「ほぅほぅ!」


 ますますファンタジーになってきた。ここに書かれている魔石と呼ばれるアイテムを売却することで、冒険者は利益を得ているようだ。


「生活費を稼ぐ光明が見えてきた!」


 冒険者協会の公式ホームページには、まだまだ情報がある。これは気合を入れて情報収集しなきゃね。




「まむまむまむ、ごっくん。なるほどねぇ。もきゅもきゅ」


 お腹がすいたのでお稲荷さんを食べながらの情報収集だ。お稲荷さんはとてもおいしい。俵型より、狐耳みたいにピンと立った三角形がいいんだよねぇ。


 お稲荷さんはおいておいて、大体の情報はつかめた。


 冒険者として活動するのに、今の私には何の問題もない。むしろ、獣人の特性や転生特典のスキルもあって、普通の人よりも圧倒的なアドバンテージがある。


「そうと決まれば試験勉強だ」


 冒険者になるには、冒険者協会の行う試験に合格しなくてはならない。試験には学科と実技の2つがある。


 実技は簡単に言えば体力テストのようなもので、最低限動ければ何も問題はない。


 一方学科は、ダンジョンについてや関連法、マナーなどの知識が求められる。ダンジョンについてはオタク知識で概ねなんとかなりそうだけど、法律やマナーなどは全くわからない。これはしっかりと勉強する必要がある。


「次の試験まで、1ヶ月ないのかぁ。あっ、お稲荷さんなくなっちゃった……」


 冒険者試験は毎月第1土曜日に行われる。今からだと、最短で3月の試験を受験することができる。


 実技はともかく、学科は少し心配だ。学科試験の対策テキストを購入して、内容を確認してからいつ頃試験を受けるか決めよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る