電車の運転士・彰人の「あと3分」

 彰人あきひとには三分以内にやらなければならないことがあった。


 ガチン ガチガチガチン


 大きなレバーを手前に倒すと、電車が加速していく。

 速度計は時速百十キロを指していた。通常よりも速いスピードだ。


「戸神東踏切通過、一分遅延」


 運転士である彰人が踏切の標識と懐中時計とを指差し確認する。

 この時、この電車は途中駅での酔っ払いの介抱で運行が遅れており、正常な運行に戻そうとする、いわゆる回復運転を行っていた。


「次の戸神市駅にあと三分で到着できれば……」


 ガチン ガチガチン ガチガチガチン


 カーブの手前でレバーを奥へ倒して速度を落とし、通過後に手前に倒して再度電車を加速させていく。このペースで行けば、戸神市駅には遅延無しで到着できるかもしれない。終電車とはいえ、定時運行は鉄道事業に携わるものとして当然だと、改めて気持ちを引き締める。


 彰人は、電車を加速させていった。



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