驚愕に驚愕返しを受ける

僕は今、現状を信じられず、頭を抱えていた。

ベッドから起きれない、身体はダルいし…熱っぽい気もする…風邪を引いたかもしれない…

アルさんから好きだと言われ、キスまでされて…

どうしたら良いんだろうか…僕。


答えたい気持ちは、少なからずあるんだ。でも、如何いかんせん…僕は男なんだよ。

あの場で断っておけば良かったのに、反応出来ず、話せないのを理由にしつつ、僕はキスを受け入れ、更には…

嫌じゃなかった?の問に首を縦に振ると、イエスと答えてしまった、始末が悪い。

だって、嫌じゃなかったんだもん!


整い過ぎている容姿を持つアルさんが雨に濡れた結果、美貌が増量されてるのに、そんな人に迫られて、NO!と言える人が居たら、名乗り出て欲しい!今すぐ。

例え男でも皆んな、ぽーっとなる筈だ!

それくらいの出来事だったのだ。


しかも、口付けされて、怒るどころか、僕なんかに口付けさせてしまった…みたいに、罪悪感まで持ってるというオマケ付き。


でもな、ずっと騙しておくのは、どうかと思う…人として。

アルさんなら…今ならまだ、許して貰えるんじゃないかと…薄く思おうとするけど、一方の弱い自分は、凄く怒るアルさんが想像出来てしまう。


だとしても、やっぱり、次に会った時には、告げよう。

僕は、男なんです!って。

それこそ、男らしく!

決心はしたが、それにしても、身体がだるい…


コンコンってノックの音が聞こえた。

もちろん返事はしない。しばらく待っていると…

ん?誰も入って来ないのかなぁ…

今日はもうしんどいから、このまま寝ちゃおう…なんて思っていると。

ガチャリとドアノブが回され、入ってきたのは…

アルさん…


えー、アルさん!来ちゃったの?

なんでなんで?

僕、今言わないとイケナイのかぁ!えええー!ウソぉーーー!

晴れた日に、あのいつもの木の椅子のとこで言うつもりだったから。

そこまでに言葉を考えて…まだ猶予があると思っていたから。

さっきの決心は、どこへやら…既に後込しりごみ体制に入ってますよ僕。


「大丈夫?晴れたのに椅子のトコに来ないし…昨日の雨で風邪でもひかせてしまったかと」

心配して、来てくれたみたいだ。

もう、そんな時間か。

エマさんに何も言わずに仕事を休んだ事に気付いて、起き上がる。

立とうとするけど、フラついてしまい、アルさんに支えられてしまった。


「仕事は休めば良いから、寝てなさい」

ピシャリと怒られながら、再び寝かされた。

僕のおでこにアルさんの手が当てられる。冷んやりしていて良い気持ちだ。


「俺のせいだよな…熱がある。本当に申し訳ない」

そんな事無いですよ…と伝えたいけど、確かにクラクラするので…

僕は目を開けていられなくなり、スーッと閉じた。

そして、言わなくては…伝えなくては…と思いながらも、意識は遠のいていった。


次に目を覚ますと、少し辺りが暗くなっていた。

僕の寝ているベッドの横に、椅子を持ってきたんだろう、アルさんは、腕組みをしながら首を下へ傾け…目は閉じている。どうやら、眠っているようだった。


「起きた?大丈夫?」

アルさんの表情は硬く、やはり凄く心配させてしまっている。

僕は観念した。もう、言ってしまおう。

なんか…僕の気持ちがどうとか…

アルさんの心配顔を見ていたら、そんな事は、一瞬にしてどうでも良くなった。


アルさんを騙している…それが現実であり、してはならない事。


あの夜の出来事から僕を心配して、いつも気にかけてくれて、今日は、こんなに暗くなるまで…横に付いていてくれた優しい人に、不誠実なままでは駄目だと思った。


シーツをギュッと握りしめる。

勇気を出せ!僕!

「アル…さん」

久しぶりの声は、掠れた声しか出ない。


「ん?リュカ」

ゆっくりと目を開いて、こちらを驚愕の顔で見ている。


「アルさん…ごめん、僕…本当は……男な、んだ…」


目を見開きながらアルさんから出た言葉に、今度は僕の方が驚愕する事になった。


「リュカ…俺。それ、知ってる」


「えーーーーーーーー!え、え?は?」

知ってる?

知ってる…なんで?

は?なんで?

頭の中に?マークが30個くらい浮かぶ。


「リュカさぁ…首の喉仏、レースで隠してるよね?俺が結び直したの覚えてる?」

結び直し…あ!初めてパンを貰った時だ。

「あっっ!覚えてる!」

「そう、その時、見えたから…男だよな…って、でも、隠してるぽいし、口も聞けないから、何か理由あるのかな…って」

そんな頃からバレてたって事に、ものすごく驚いた。


「でも、喋れるのは、知らなった」

少し困ったような、寂しそうな表情で言われると、いたたまれない気持ちになる。

「ごめんなさい…黙ってて」


アルさんは、柔らかく笑ってくれた。

僕は、何故女性に扮してここに来たのか理由を全て話した。

言葉が話せない振りをしている理由も含めて。

アルさんは、時々詰まる僕の言葉を穏やかに優しく聞いてくれた。


途中で、涙が出てきて止まらなくなって、ヒクヒク言って、聞き取りにくいだろうに、僕の言葉を待ってくれた。


「良かった…何かの病気で話せないんだと思ってたから」


ぎゅっと抱きしめられた僕の耳元に、アルさんの言葉が落ちる。

「だから、男だと知ってて…好きなんだよ?」

ハッとした。そうだ!

最初の僕の懺悔ざんげへの返事!アルさん、僕が男だと知ってたって…言われたよな。

身体を離して、アルさんの顔を覗き込む。

分かってて…好きって…もしかして、元々男色の人なのかな?

そういう人も居るって…この間、サーアから聞いた。彼女は、世の中の事を良く知っている。


「ちょっとリュカ、読めたよ!その顔は!俺は元々…女性が好きだ。だから、男を好きになった事を否定したかったし、どうしようかと…それが昨日の、雨で水浴びの理由」


僕の中で、ものすごく合点がいった。

立場とかで悩んでたのかと思ったら、それに加えての、性別での悩みも含まれてたのか。


「で?リュカは…俺の事、どう思ってる?」


「えーと、分からない…多分…好き?」


アルさんは、突然男前台無しの渋い顔になった。

それが、可笑しくて、つい笑ってしまう。


「あ、リュカが、笑ったから…幸運が来るかな」

おでこにキスを落とされた。

この人…もしかしたら、結構手が早いのか…

サラッとこういう事をしてくる辺り…手馴れてる感じがして。

それだけは心配になったが、話が出来た事で、めちゃくちゃスッキリしていた。

ここに来てから2ヶ月…人と喋らなかった生活のもどかしさみたいな物が、スーッと抜けた。

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