告白とキス…
え?アルさん?
僕は、ふと窓から外を見た拍子に目に入った人影。
目を凝らしてみると、それはどうもアルさんにしか見えず。
雨の中をズンズン歩いてる。
綺麗な銀髪が雨粒で濡れてしまうのも気にせず…どこかへ向かっている。
ものすごく気になって…
僕はショールを頭に被って外に出た…もう1枚ショールを手に持って。
雨の中へと、
アルさんが向かった方へ駆けて行く、雨なのに…方向的には多分、庭の木の椅子へ向かっていた。
晴れじゃないよ?今日は、雨だよ!しかも、ざぁざぁ降りだよ!と、心の中でアルさんに声を掛けたけど、もちろん返事など無い。
見つけた!
天を仰いだかと思うと俯き、木の椅子にスっと腰掛けた。
その一瞬の動作があまりに美しいので、思わず見つめてしまいそうになるが、ずぶ濡れのアルさんを早く雨から守らないと…
僕は近づき、もう1枚ギュッと胸に抱えていたショールを、アルさんにふわりと掛けた。
「え?あれ?リュカ?」
顔をこちらに向け、戸惑いの顔を見せる。
「雨の中どうした?」
いや、アルさんこそどうしたんだよ?
「濡れてしまうから、建物へ戻ろう」
僕の手を握り、急ぎ足で僕の住まいとなる別棟へ向かう。
走るとぐにゃりと沈む地面に足を取られ、僕がよろけそうになる度、アルさんがギュっと僕の手を引き、助けてくれた。
靴がドロドロになるくらい地面は濡れていた。
アルさんは僕の部屋の前まで来ると…握っていた手を離し、サラリと立ち去ろうとする。
離れてしまった手を掴もうと、僕は手を伸ばした。思わず掴んでしまった手は、かなり冷えている。
「部屋の中へ入るわけにはいかない」
ブンブン首を横に振る。
そんなずぶ濡れで、また外に行って、雨を浴びてしまうのでは無いかと…
雨に濡れていた理由も分からないし、このまま手を離してはイケナイと思った。
僕は、グイッとアルさんの手を引き、部屋へ引き入れた。
僕にしてはかなり、大胆な行動だったと思う、この部屋に入れたのはサーアだけだし、そもそも男性を部屋に引き入れたなんて、エマさんに知られたら、激怒されるだろう。
それでも、このまま行かせてしまって良いとは思えなくて…
アルさんを椅子に座らせ、ギュッと握っていた手を離すと、僕はショールで彼の髪の水分を吸い取った。
床にポタポタと雨雫が垂れる。
僕は、なんだか泣きたくになってくる。
何故雨の中…こんなに濡れて…
寒い日だったら、完全に風邪を引くだろう、まだ暖かな日で良かった。
大体の髪の水気は取れただろうし、服の方は自分で拭いて貰おうと思って…
ショールを頭に掛けたままでは、表情が見えないので、僕はしゃがむと、アルさんの顔を下から覗いてみた。
覗いた事を後悔しそうな程に、アルさんから発せられる色香に当てられる。
少しだけ肌の色味は青く、雨に濡れ艶やかな頬と、濡れて色味が少し濃くなった銀髪。独特の雰囲気を醸し出していて、魅惑的な姿にクラクラしそうだった。
そして、薄い青色の瞳と目が合う。
アルさんは、僕に手を伸ばし…
両手で僕の頬を囲むと、真剣な眼差しで
「ごめん…リュカ、やっぱり好きだ」
え?今、僕…もしかして…
告白された?
人として好き。みたいな調子では無い事は、こんな僕でも、彼の真剣な表情から読み取れた。
「迷惑になるかもしれないのに…」
迷惑…アルさんみたいな人に告白されて迷惑だと思う女性が居たら、それは好みがかなり変わった人だろう。
万人は喜ぶに違いない。
ただ、僕は…残念ながら女では無い。
ていうか…それを考えるのに、まさか雨の中、庭の木の椅子に行ってたのか?
ちょっと信じられない。
「君の事を考える時間が増えたな…とは思ってたんだ。日々溢れそうな何かが止められなくて。雨で頭でも冷そうかと…気付いたら君との場所へ座ってて。そこに、まさか君が現れて…俺は、ハッキリと認識してしまったんだ、好きな事、その気持ちを簡単には諦められそうに無い事が、同時に」
嬉しい…
え、あれ?嬉しいんだ僕…
思ってしまった自分の感情に…突然気付いた。
ほのかに胸にあった気持ちは、見ないようにしていたけど、少なからず、僕もアルさんが好き。
どんな好きか?どれだけ好きかは…ちょっと良く分からないけど…告白された事は、とても嬉しかった。
でも、でーもー!戸惑う気持ちも同じくらいあって。
どうしよう…
僕の性別を知らぬまま、アルさんは、女としての僕を好きだ。
なんだか騙してるみたいだし、ズキリと胸に痛みが走る。
アルさんなら信用できると決めて早めに男だとバラしておけば良かった…と思うのは、完全なる後の祭りで。
今、まさに…告白を受けていて。
過去は戻せない。
しかも、今のアルさん…凄く凄く格好良い。
こんな表情で、好きなんて言われて心が振るわない人なんていないよ。
彼からは、僕の返事を待ってるような気がしたけど…
言葉が話せないって事で、今は、助かってる。
「そっか…リュカ、言葉…」
アルさんも気付いてくれたようだ。
「じゃ、嫌なら…押し退けて」
どういう事だ?と思って居たら、あっという間にアルさんの顔が目の前で、綺麗な瞳が閉じられたかと思うと…
唇が触れた…
しっとりとした唇は、僕の小さな唇に、微かに触れるとすぐに離れた。
呆気にとられている僕は、目を見開いたまま…今しがた起こった事を反芻して、やっと。
口づけされたのだと分かる。
え、僕…今…キスされちゃったんだよな。
押し退けるとか以前に、なんの事か分からず、しかも、青藍の瞳が綺麗だな…なんて思ってたから、反応出来なかった。
もちろん生まれて初めてのキス…
色んな事が頭の中に情報として駆け巡り…僕の顔が一気に真っ赤になったのが分かった。恥ずかしいのに…
「ちょっと、反応が可愛すぎるんだけど」
アルさんは顔を手で覆いながら、眉毛を八の字にしている。
「嫌じゃなかった?」
嫌じゃ…無かった…な。
そう、思いのほか…全く悪くなかった。
男にキスされて喜ぶとか、僕、どうしてしまったんだろうか…
ホームシック末期とかなのかな?
正直者の僕は、コクリと頷いちゃったよ。なんか、アルさんがめちゃくちゃ嬉しそうにしてる。
「でも、1回で、やめとくな。ここだと、歯止めきかなさそうだ」
なんか、危険な事言われたな。
たしかに…ここは、密室で、おあつらえ向きとばかりのベッドもある。
いくら、そういう知識に疎い僕だって、男女の交わりの薄い知識はある。
ベッドで、何かするんだろ?
良く分からないけど…触ったり?
ハッ!触れられたら、すぐバレるじゃん、僕が男だって!
何かの警報がなるように、僕の顔が一瞬にして、青ざめた。
「そんな顔しないで。何もしないから…思いが伝えれて、良かった」
さっきまで雨に濡れて、とんでもなく暗い顔をしていたアルさんなのに、今は、逆に雨上がりの虹みたいにキラキラとしている。
一方の僕の心の中は、どしゃ降りの雨模様だった。嵐が巻き起こっていると言ってもいいくらいの…
罪悪感と幸福感と困惑感が渦巻いていた。
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