僕が笑うと幸運が?
「笑うと…凄く可愛いんだけど!」
サーアから突如言われた言葉。
普段、喋らないように気をつけてるけど、サーアは話が上手で、ついついクスッと笑ってしまう。
男なのに、可愛いと言われて、喜んでいいのかどうか…
この間、バードにも言われたんだよなぁ。
笑顔が可愛い…とか。
口説き文句的な感じなのかな…と思って完全に無視しといたけど。
貴方の方こそ…ってジェスチャーをすると、背中をバシンとサーアに叩かれる。
痛い…結構、チカラツヨイ。
「もうっ!リュカも上手!ねぇ、みんな、リュカ笑うと本当に可愛いよねぇ!」
リュカは、僕の返しはサラッと流して、みんなに同意を求めている。
そんな事無いだろ…と思う僕だけを覗いて、他の女の子達数人は、うんうんと大きく頷いている。
それは、普段は無表情を決めてる僕だから、ギャップ的な何かじゃないかと思うんだけど。
しばらくして、僕の笑顔が見れたら幸運みたいな変な遊びが流行ってしまい。
みんなが何故か、こぞって笑わせに来る。
不意打ちが多いので、どうしても、思わず笑ってしまう。
なんだか分からないこの遊びの元凶はサーアだ。
でも、不思議と腹は立たず、みんなが楽しんでくれていて、僕も、意外な笑わせ方をしてくる人も居て、本当に面白かった。
真面目な人ほど…変顔の破壊力は凄いんだ。
そうやって、みんなとの距離を縮めてくれたのだと思った時に、サーアの心遣いに感謝した。
黒板にチョークで、ありがとうって書いて見せると、キョトンとされる
「え?あー、わざとじゃないのよ、本当に。まさか、こんな遊びが流行るなんてね、みんながリュカとの距離を実は縮めたかっただけだと思うよ?たまたま、私がお題を出した… という結果論よ」
自然なその言い方に、本当に良い友達が出来たと思った。
その日、庭の木の椅子に座り、いつものようにアルさんからパンを頂戴して、今日も焼きたてホカホカは、最高!って感じでモグモグしてると
「今さぁ、流行ってるらしいんだけど、リュカを笑顔にしたら幸運になれるんだろ?」
まさかの、アルさんまでそんな事を言ってくる。
「俺、笑わせるのは苦手なんだよな…どうしたら笑ってくれる?」
傾けた顔が、とてもとても妖艶で…
サラリと垂れた銀髪、薄青い綺麗な瞳に見られて、笑うどころか、ポニャッと頬が高揚するのが分かった。
「笑顔じゃなくて、恥ずかしそうな顔も可愛いな…」
最強の一言を放たれた。
僕は、完全に照れてしまい、アルさんとは反対方向へプイっと向いた。
「怒った?それも可愛いけど」
クスクスと笑いながら言われ、完全にからかわれている事が、やっと分かった。
僕の反応を見て楽しんでたんだ。
もう!!と思って、睨み付けようとアルさんの方へ向き直った。
すると、アルさんは、笑ってなくて…めちゃくちゃ真顔だった。
「本当に可愛いと思ってるんだよ」
ダメだ…このタイミングでそんな事言われて落ちない乙女が居たら…教えて欲しい。
僕が男で良かった。
ドキドキはするけど、辛うじて、恋に落ちてはいない。
でもどうしたら良いのか分からなくて、少し後ろに身を引いた。
「逃げないで」
アルさんが手を握ってきた。
「からかって、ごめん」
なんだ、最後の本当に可愛いと思ってる…は、からかってたのか。
それなら…と、僕は、ニコッとして、アルさんの手をギューーーーーっと握った。
「痛っ、たっっ」
驚き、笑うアルさん。
僕もクククッて笑う。
「ごめんって!手を!離してーーー」
思い切り手を握りつぶしたからね、女性よりは、一応チカラありますよ、男なんで。
楽しい。アルさんが慌ててるのなんて初めて見て、凄く面白かった。
「リュカが、意外と力が強いって事が知れたよ」
僕は、嬉しかった。
女として…かもしれないが、力が強いとか、僕に取っては最高の褒め言葉。
「リュカは、言葉は無いのに…いや、だからかな?とても表情が豊かだよね」
そうかな…自分ではそう思わないけど。
「一緒に居ると楽しいよ」
僕は、ギューっと手を握るジェスチャーを見せた。
「それは、もういいよ…普通に握って欲しいかな」
クスクスと笑いながら、またね…と去っていくアルさんの後ろ姿を眺めた。
僕の仕事もだいぶ進んでいた。
もう、早くもここに来て2ヶ月が経っていて…
あと一ヶ月…
多分仕事は、完成すると思う。
慣れてきたし、僕の刺繍の腕は、ベテランのエマさんからもお墨付きを貰っている。
日々の積み重ねで、刺繍が出来上がっていく工程がとても好きだ。
少しづつ、何も無かった布地に、色が足され、縫い目が均一に揃い、触ると浮き上がるような感触。
触る時の快感、縫ったな…と指に現実が教えてくれる。
これが、僕の仕事だ。
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