取材と断罪
ドアを開けたティアナの横にいたのはアスカが初めて見る女性であった。
「はじめまして。御堂アスカ…先生?」
彼女は不敵な笑みを浮かべていた。
「ティアナ。この方は?」
「バロックタイムズの記者の方…です…」
バロックタイムズと聞いてすぐにピンときた。自分のことを散々好きに書いてくれたこの新聞の発行元である。
ティアナの方を見てなんで連れてきたんだと目で訴えるものの、ティアナはただ申し訳なさそうにしていた。
「御堂アスカ先生。はじめましてわたくしこういうものです!」
先程ティアナに紙くずにされたものと同様の名刺をアスカに渡してきた。
自分のことを散々こき下ろしてきた新聞社の記者ということで多少なりとはムッとするところはあったが今はグッと堪えた。
「バロックタイムズの人形担当記者の方ね…」
「いやーお会いできて光栄です!」
社交辞令のような挨拶をしてきた佐渡に対してアスカも同様に返事を行った。
「これはこれは、散々に書いてもらってどうも。私が御堂アスカです」
お互いに握手を交わす。佐渡の後ろにいるティアナは不機嫌そうな顔でその様子を見つめていた。今日来たのはさしずめ人形師として復帰した意気込みかもしくは何かしらのネタ探しにでも来たのだろう。ちなみにアスカは記者嫌いであった。天才人形師としてもてはやされ、マスメディアに追いかけられた経験から彼女たちのようなものに心底うんざりしていた。
数年前とあるスポーツ選手がメディアに追いかけられすぎてプライベートまで邪魔された結果、調子を崩しておかしくなったこともある。
とりあえずは便宜上のやりとりをするために記者の佐渡をソファに誘導した。
そしてお互いにソファに座りアスカの後ろにティアナが控えた。
「それで、私に何か様ですか?」
「この度、先生に取材をさせてもらいたくて来た次第です」
やっぱりな。アスカはそう思った。
ただ少し驚いているのが、いつもであればこのような連中がアスカの周りに来た時にティアナがすぐに追っ払うのであるが、今日に限ってそれがなかった。
「御堂アスカ先生単刀直入に言うと取材内容というのはあの事件から1年経っての復帰ということで、、意気込みとあの事件を振り返ってということお聞きしたいのですが…」
「意気込みねぇ…」
佐渡は早速カバンからノートとペンを取り出して取材をしようとする。
「意気込みはただ前のように人形を作りだすだけだよ。特別なことは何も無い」
「でもあのような凄惨な事件があって、被害者やその遺族の方たちは納得してないと思いますが?」
やはりそう聞いてきたか。先程読んだ新聞同様のことである。あの事件において街ひとつが壊滅状態にまで追い込まれており、亡くなった人もたくさんいた。もちろんアスカ自体が引き起こした訳ではなくアスカが生み出した人形が全て引き起こしたものであるが、やはり製作者ということもあり罪はある。
当然世間からの逆風は凄まじいものである。
「納得も何も1年の謹慎処分という判断を下したのは協会だし、裁判でも俺は不起訴になった。それだけだよ」
多分いま記者から見えてる自分はクズや汚職政治家並に醜く写っているのだろうのなとアスカは感じた。
「とはいえ、あの人形を作ったのはあなたですよね?責任は感じてますか?」
「もちろん感じてるさ。ただあの暴走に関しては本当に予期しなかったことだ。どうしようもできない」
彼女のペンがスラスラと進んでいく。質問をされては答えてでその空間というのは決して楽しいものでは無い。
「どうしようもできないのに、あなたはまた作ろうとしているんですか?それって無責任では無いですか?またあなたが作った人形が暴走してそして人を傷つけたら?」
「その時は、暴走を速やかに止める」
どこか彼女のペンで文字を書く力が強く感じる。ペンが走る一つ一つ音に何か怒りのようなものが感じる。
「止められなかったら?」
「俺は君たちマスメディアから天才と言われてるんだ。できるさ」
「そうですか…」
「無責任ですね…」
彼女の表情は先程の笑顔の感じとは違って暗く冷たい表情をしていた。
一方先程まで後ろに控えて取材を聞いていたティアナはたまらなくなったのか口を開く。
「あなたのような一般人にご主人様の苦しみが分からないでしょう?」
「はい?」
「確かに結果としてあの人形は多くの人の生命を奪ってしまった。
しかし、ご主人様は自分が心を込めて作った我が子のような人形があのように暴走して人を傷つける姿を見てしまったのです…。」
「もちろん多くの人の生命を奪った人形を作ってしまったことにご主人様は責任を感じてます。あの事件が起きてから復興のための資金をこれでもかと出しました。
被害者や遺族一人一人に土下座までして謝り続けました。」
「自分の大好きだった人形作りも出来ずに文字通りただ息をするだけの虚無のような時間を過ごしてきました。もうご主人様は罰を受けています」
ティアナの脳裏にはこの1年間のアスカの姿が走馬灯のように映し出された。1番近くで彼を見ていたからこそわかるものがある。
当事者であるからこそ見えているものがある。
彼女は人形ではあるものの、涙を目に浮かべていた。人形は普通涙など出さない。しかし、アスカが生み出した
佐渡は人形の涙というのを初めて見た。神秘的でこれが御堂アスカが天才と言われる所以であるかと感じ取れた。
佐渡はティアナからの訴えに黙った。そして俯いて少し下がりかけた眼鏡を元の位置にかけ直す。そして少しため息をついて口を開いた。
「先生。私はですね…あの事件で家族を喪っているんですよ」
彼女の発せられた言葉をあまりに思いがけないものだった…。
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