第5話 狐悪魔エンジェ

 それはコラボ配信前の、顔合わせ通話で起こったことだった。


 僕は、ボイスチェンジャーを起動して、通話に入った。


「もしもし?」

「あ、もしもし梨林りりん?もうすぐエンジェ来るからちょっと待ってね」

「おけおけ」

 数分待っていると、狐悪魔こあくまエンジェが通話に入ってきた。

「もしもーし」

「あ、エンジェ久しぶり!!」

「ヱカルラ久しぶり」

「初めまして、鳴神なるかみ 梨林です」

「あんたが最近、めっちゃ人気の新人V?なーんか、生意気ね」

 狐悪魔エンジェは、不躾にそう言い放った。

 あれ?おかしいな。確かに癖があるとは聞いていたけど、上坂さんの友達だしここまでとは想像していなかった。

「こら、エンジェ、いきなり失礼だって!」

「だって、若い芽は早いうちに摘んでおかないと、いつ抜けれるかわかんないし」

「いやいや、一応同じ事務所なんだからさ」

「そうね。冗談よ。正々堂々と勝負しましょう。鳴神さん」

「はい。よろしくお願いします」

 事務所違ったら、正々堂々じゃなくていいのかとは思ったがツッコミ役を出来る感じじゃないのでやめといた。

 ◇


 そして、配信は始まった。

 まず、個人でオープニングトークをしてから、合流する形だった。


「ヱカちゃんと、狐悪魔エンジェさんとBPEXコラボすることになったので行ってきます!」


『大丈夫かなぁ、エンジェ曲者だし!』

『りりぃなら大丈夫大丈夫!』

 りりぃっていうのはリスナーが呼ぶ、僕のあだ名だった。コメント欄は、僕を心配する声で溢れていたが、、まぁ、大丈夫だろう。


「やあやあー!」

「ヱカちゃん!やあやあ」

「やあやあ、梨林ちょっと待ってね。もうちょいでエンジェ来るらしいから」

「いやー緊張するなぁ初めてだし」

「まぁまぁ気楽にね、エンジェも良い奴だから。根は」

「根はね」

 2人で笑い合いながら楽しく待機していると、狐悪魔エンジェが現れた。

「もしもーし、、あれ?」

「あ、、エンジェ」

「はじめましてー」

「うわぁーもう二人いたんだ!遅れてごめんごめ〜ん!」

「え?」

「もー、いつも遅刻してくるね!エンジェは!!」

「ごめん。なんでもしますからぁ」

「なんでもはいいから、初めましての梨林にも謝まりなさいっ」

「ごめんね、、ほんとに、、、、」

 と、涙ぐんだような潤んだ声で謝ってくる。

「い、いや。大丈夫ですよ!全然!!」

 ンンっ?アレ?

「ほんとぉ〜?梨林ちゃん、優しい!もう好き!!ありがとう〜」

 さっきのキャラは?

 いや、さっきまで僕に初っ端から、『あんたが最近、めっちゃ人気の新人V?なーんか、生意気ね』とか言ってたよね!?めっちゃ、クールな声で言ってたよね!?

「じゃあ、気を取り直して3人で試合行こっか」

「うんうん、行こう行こう〜」

「お、おー」

 これが、女の子の裏表と言うやつかと思った。

 どんなに綺麗なバラにもトゲがある。どんなに可愛いVTuberにも、、裏がある。狐悪魔エンジェがこうであるように。僕が、男であるように。

 ただ僕はこの時、2人との会話に夢中でコメント欄を見ていなかった。


『まだエンジェ猫かぶってるなwwwww』

『エンジェがいつ本性表すか楽しみw』

 という含みのあるコメントたちを。


「梨林ちゃんは、最近始めたの?BPEX」

「はい。だからまだ下手くそなんですよ」

「そうなんだ〜、あっ面倒臭いからタメ語でいいよー」

「梨林とうちは下手仲間だからね!」

「もう、あんたは前からやってるんだから一緒にしちゃダメでしょー!でも、エンジェも初心者だからって手加減はしないからね!」

「手加減って?」

 僕は聞いた。

「勝つために全力でやるってこと!初心者でも下手でも!」

「あ〜それはもちろんやるよ!」

「そう?ならいいけどね〜」


 キャラ選択に移り、僕はいつも通り初心者オススメのブラ○を使い、ヱカちゃんは、あの時と同じで○ブを選択した。エンジェさんは、上級者向けの○イスを選択した。


 さっきも手加減しないとか言ってたし。相当なこのゲームの手練てだれなのかもしれない。


 そして、相手プレイヤーと接敵し、戦闘になった。


「ヱカルラは右の敵見てて!梨林ちゃんは左お願い〜、エンジェが先ず攻め込むから!」

「おっけー!」

「は、はいっ!」

 エンジェさんが使う○イスが、正面突破を切って、敵部隊に突っ込んで行った。


 激しい銃撃戦が起こる!しかし、○イスの体力ゲージがゴリゴリに削れていき、ビュウンという音と共にダウンしてしまった。


「うわぁー、やられた!やられたぁ!起こして〜」

 えぇ?今、一瞬でやられなかったか?

「ちょ、今無理!梨林いける?」

「が、頑張ってみる!」

 そう言って僕は、○イスを起こしに行った。このゲームは1度ダウンしても、確キルまで取られなければ、ダウンした仲間を蘇生することが出来る。

「ありがと〜梨林ちゃぁぁ〜ん、あっ」

「あ」

 僕は敵前で蘇生してしまい、蜂の巣になった。

 そして、僕たちの部隊は全滅した。


「もう、2人がカバーしてくれないからよ!!もうもう!次々!梨林ちゃんも敵前で起こしちゃうし!!」

「えぇ、だって起こせって……」

「いつも無茶言うからなぁエンジェは」

「うるさいうるさーい次々!チャンピオン取るまでやるからね!終わらないからね!エンジェについて来なさい!!2人とも!!」


 その後もチャンピオンを取るために試合をやっていったが。


「ごめん、またやられた!助けて!」

「ええ、今行きます!」

「うわ!やばいこっちもやばい!」

「あ、やっぱ今起こすのダメ!ダメだってえ〜」

「え?ああごめん!」

 部隊全滅。

「ごめん、迷子になった。ヱカルラ?梨林ちゃん?どこー?」

「もうリング内にいるよー」

「えぇ!?なんで!置いてかないでよお!」

「エンジェが、色んな物資漁るから置いてっていいって言ったんじゃん!!」

「あっ、敵が、ごめん死んだ」

「「えぇ〜!?!?」」

 2人になって何も出来ず、部隊全滅。


チャンピオンを取るどころか、呆気ない初動死ばかり。


 あれ、エンジェさん口だけで上手くない、、?なのにめっちゃ指示してくるし。


 ゲームを始めて3時間。未だにチャンピオンは取れなかった。

「これ、チャンピオン取るまで無理じゃない?」

「思った。もうここら辺にしとかないー?エンジェ」

「何2人とも諦めてるの!だいたい2人がエンジェについて来れないからでしょ!」

「いやいや!エンジェさんの方がやらかしてたけど!?」

「なにぃー!梨林ちゃんだって、めっちゃ敵前で起こしまくってたじゃん!」

「いやだって、エンジェが起こせって言うからァ!」

「ちょいちょい2人とも、じゃれ合いはそこまでにして、とりあえずもう夜遅いし、また次チャンピオン取れるように頑張ろうよ!」

 ヱカちゃんが仲裁をとって、その配信は終わった。

 エンジェが暴走して、僕もつい本音を言ってしまったけど、でも、彼女もなんかわかっててやってるような気がして、こういう茶番も悪くないなと思った。リスナーはガチ喧嘩とかに見られてるかもしれないけど、これはじゃれ合いだった。裏表があってまぁたしかにそれは怖いけど悪い子じゃないのかなと思った。


 配信終了後、狐悪魔エンジェから連絡があった。

「鳴神、もしもし?」

「もしもし?エンジェ?」

「もう、あんたが足引っ張るから私がいいとこ見せられなかったじゃない!」

「いや、悪い意味で目立ってたし良かったんじゃ、、?」

「うるさい!とにかく悔しいの。だから、またチャンピオン取るまで終わらないコラボ配信やりましょ?」

「う、うん。いいけどヱカちゃんもいるよね?」

「えっとー、ヱカルラ結構これから予定が忙しいらしくて、、私と2人でどう?」

 ええええええええええええええええええ!?

「う、うん、やろっか」

「なんでそんなやりたくなさそうな気まずそうな返事なのよ!!!!」

 いや、、だってねぇ。あんなプレイ見せられたらさ……w


 次回、2人の地獄のBPEX、チャンピオン取るまでコラボ配信終われまてん。に続く。

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