第2話 これは夢ですか?いいえ、現実です。
翌日、また僕はVTuberコースの見学に来ていた。すると、そこには、昨日会った
「どう?配信の準備とかできた?」
「うん一応、PCとか配信環境とか元々家にあるやつだけど」
「なるほどー、とりあえず、、」
「とりあえず?」
「君の、家行っていい?」
「はい?」
◇
これは夢なのか現実なのか、、、
いや現実なんだけれども、、なんでこうなった。
僕の家に、部屋に、上坂さんが来るなんて。まだ知り合って二日なのに。
「このPCっていつ買ったのー?うーんスペックは、、」
上坂さんは、僕の思いも露知らず、僕の配信環境を確認していた。
「えっといつだっけ、、?」
「まぁ、本格的にデビューする時に揃えればいっか。とりあえず、少しの配信くらいならやれそうだね」
「よかった。でも考えてみればゲーム配信の始め方とかバ美肉のやり方とか分からないな」
「え?バ美肉?」
「あっ、、」
やばい。そうだよな。僕はバ美肉で女の子のVになる気マンマンだったけど、上坂さんにそれは言っていなかった。
「ふーーん、早乙女くん、そういう趣味だったんだ?」
上坂さんは、僕の顔を覗き込み、上坂さんの顔がぐっと近づいてきた。
上坂さんの慎ましやかな胸(※けして貧しいとは言っていない決して)も近づいて、髪や服からいい匂いが漂ってきた。柔軟剤と香水が入り交じったオシャレで華やかな匂いだった。
こんなに女子と近づいたのも久しぶりで、僕はドキドキした。
ドキドキしたのは、距離が近づいただけだからではなく、彼女の顔面とオーラが強すぎるからというのもある。
整った顔立ちで、少し切れ長の目の中に大きくて綺麗な瞳が輝いていて、服装もオシャレで。
スクールカーストの上位、選ばれた人だけにしか、こんなに近くでお目にかかれないだろう。一般カーストの僕にとって彼女は、中高の頃、いつも遠巻きに見ていたキラキラとした集団の中にいる憧れの存在そのものだった。
「うーん、アリかもしれないなぁ、バ美肉!!」
「アリなんだ?てか何で判断したの!?」
「いや、顔しかないでしょ!!君、、結構可愛い顔してるし……てか、顔出し配信とかもいいかもね?」
「それ、VTuberとしてアリなの?」
「してる人もいるし、君ならアリだと思う。まぁその場合は、うち、好みにコーデしてあげるからね?」
この言い方、そして上坂さんの表情、完全に僕を男の娘として見ている感じだった。もう、僕の素性は彼女に見破られていた。
「いやーまさかまさか、こんなにもいい逸材が身近にいるとはね、、しかも、中々居ない特殊な属性ときた。初配信楽しみにしてるからね♪」
色々な準備を手伝って貰ったあと、別れの挨拶に上坂さんはそう言った。
「なんか、色々とありがとう。配信のこと教えたり、準備手伝ってくれたりして」
「いいよいいよ!うちが単純にVTuberやりたい人には一から百まで教えてあげたいだけだから。うちけっこーお節介なんだ」
上坂さんはそう言って笑った。被っている帽子に刻まれた太陽のような笑顔だった。
その帽子に描かれている鳥のように、彼女は僕を羽ばたかせてくれるのかもしれない。
ギャルっぽい見かけによらず、彼女は親しみやすいいい子だった。
◇
そして、僕は初配信の日を迎えていた。
「緊張するな、、でも、」
ワクワクもあった。
上坂さんに色々教えて貰って、可愛いバーチャルキャラも使えることが出来た。
テストで配信してみた時は、ボイスチェンジも上手くいっていて可愛い声が響いていた。
よし、大丈夫だ。
すうっと息を吐いてから、僕は配信開始ボタンを押した。
◇
初配信が終わった。
終わった後、僕は疲れてすぐに寝て、気づいたら朝になっていた。
ライブ配信でちらほらコメントがあったし、視聴者も数十人来てくれた。初配信としてはまぁそこそこ良かったんじゃないかと自己評価した。
そして、専門学校で、また上坂さんとVTuberコースの教室の前で会った。
「昨日の配信むっちゃ良かったよ!!」
彼女は、ハイテンションで昨日の配信を褒めてくれた。
素直に、嬉しかった。
「ありがとう。上坂さんのおかげだよ。色々と教えてもらったし、上坂さんのおかげでやろうと踏み出せたっていうか」
「あはは、そんな事ないって、君の力あってこそだよ、やっぱりうちの目に狂いはなかったねー」
ウンウンと頷きながら上坂さんは言った。少し高揚しているようだった。それに気づいたのは顔を赤くしていたからだ。
「ねぇ、うちの事務所でオーディション受けない?うちが推薦しておくからさ」
「えっ!?」
「大丈夫大丈夫、君なら絶対受かるよ〜」
「本当?不安だなぁ、僕、VTuberの知識とか配信の知識もまだまだだし」
「困った時は先輩Vとして、何でもうちが教えてあげるし、けっこーうちの事務所、緩いから大丈夫!」
「ちなみに、事務所ってどこなの、、?」
「リアライバーだよ。知ってる?」
ニヤッと笑って聞いてきた。
知ってるに決まってる。
リアライバーといえば、今、VTuberの事務所の中で一番人気で、勢いのあるところだ。
リアライバーには大勢のVTuberが所属しているが、そこに所属するだけで勝ち組Vとされるって聞いた事がある。
「ス、スゴすぎるじゃん!」
ついつい僕もテンションが上がってしまった。
「ち、ちなみに、誰なの?」
僕はそこまでVTuberに詳しくないから知らないかもしれないけど気になってしまったから後先考えず聞いた。
「実は、、うち、
「えっ、えええええええええ!!!!」
色鳥 ヱカルラ。
リアライバーの中で一番人気のあるスターセブンと呼ばれる7期生の一人であり、人気と知名度と実力はVTuber界でもトップを争う、、らしい。
本屋でVTuberの雑誌を読んだ時にたまたま色鳥 ヱカルラの記事をみつけ、僕はその内容を覚えていた。
つまり、簡単にまとめると、色鳥ヱカルラは、トップVTuberであり、年収もやばいし、人気もやばいし、とにかくやばいということだ!!そんな人が、目の前にいる!!!!
「お、おーい固まってるけど、大丈ぶぅー?」
「大丈夫大丈夫。それより、握手してください」
「ええっ!?急に!?握手なら、最初会った時にしたじゃんっ!自己紹介でっ!」
彼女は笑いながら僕にツッコんだ。
「あっ、そうだった……つい」
「そんな有名人みたいな扱いしないでよ、やりずらいからっ」
「とはいっても、、トップVTuberさんですし、、?」
「もう、やめてよー!早乙女くん。今の私はただの専門学生、上坂二子だよ!!」
「ごめんごめん。でも、リアライバー、しかも色鳥 ヱカルラっていきなり言われて興奮せずにはいられないんだよ」
「それはそう!!それについては驚かせてごめんっ!!!!」
「あはは、いいよいいよ」
「……まぁでも、それだけうちは、君を買ったって事だから。普通なら身バレ厳禁だし」
笑いあって茶番をやっていた雰囲気から一転、彼女は真剣にそう言った。
「どう?オーディション、受けてくれる?」
「僕でいいのなら、、やってみるよ」
こんなに、彼女に後押ししてもらったら、もう断ることなんて出来るはずがなかった。
それに、僕も挑戦してみたい気持ちはあった。
そう思えたのは初配信が意外と楽しかったからだ。
一人の女の子のように、、楽しくゲームや雑談をする。
僕のそんな憧れが、現実になる気がした。
そしてこれからもっと、色々なことを、VTuberとして楽しんでみたいと思えたのだ。
「やった!じゃあ、事務所にそう伝えとくね!!」
事務所のVTuberじゃなくてもいいのかもしれないけど、夢は大きく、舞台は大きくした方が絶対楽しいはずだ。
僕は、この夢のような現実で、やれるだけやってみようと思った。
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