みそ汁(五)
おじちゃんがせがむので、私は毎日、岩波文庫の「ソクラテスの弁明 クリトン」を朗読した。私が読んでいると、おじちゃんはときおり、しくしくと泣いた。平家の亡霊に曲を聴かせている、耳なし芳一の気分に私はなった。
最後のあとがきを読み、私が「この阿部さんって、ひどい人だね」と言うと、おじちゃんも「ひどい人だよね」と言った。
それから、おじちゃんは、私に、姉さんを呼んできてくれと言った。
私が理由をたずねても、おじちゃんは答えてくれなかった。
それから、ほんとうにか細い声で、スカパラの美しく燃える森が聴きたいと言った。
私は「いいよ」と応じた。
それが、私とおじちゃんの最後の会話となった。
私も、おじちゃんと会話ができなくなった。
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