あれこれ、いろいろ(三)

 というわけで、おじちゃんは、バアバからサバばかり与えられる日々を送ることになった。

 なぜか、おじちゃんと意思の疎通ができなかったので、バアバに問題はなかったが、困ったのは、話が通じる私であった。

 色が白くなりはじめたおじちゃんは、私が屋根裏部屋にいる間中、実験の中止を訴えるようになった。それを私が無視しつづけると、今度は延々と食べ物の話をしだした。ぶつぶつと。


 イチカー、おいちゃんは大学時代に一人暮らしをしているときに、よくタルイカという大きなイカを魚屋で買って来て、自分でさばいて食べたものさ、あんまり大きなイカだから、胃の中に小魚がそのまま入っていてさ、あれはきもちわるかったなあ、ああ、イカが食べたい、もうサバはいや、焼きサバずしは食べたいけど。そういえば、もう一個、思い出した。そのお店で、スズキの切り身を買ってきたら、頭が入っていてさ、それを鍋にしてさ、おいちゃん、かじりついたのよ、そうしたらさ、ガキッと音がする、何だと思ったら、大きな釣り針だった、あれはおどろいたなあ~。

 おじちゃんのくだらない思い出話に、私は「釣られるところだったわね」と適当に言葉を返した。

 部屋に流していた、Go!Go!7188のアルバム「ベスト オブ ゴー!ゴー!」は「浮船」が終わり、おじちゃんの大好きな「神さまのヒマ潰し」が流れ始めた。しかし、おじちゃんはいつものように歌い出さず、「種」が聴きたくなったから、隣の倉庫から「鬣」を探してきてくれないかと言い出した。実験に強制参加させている負い目があったので、私は素直に従った。

 「種」を聴きながら、おじちゃんが言った。

 そういえば、おいちゃん、大学生の時、お金がなくてね、冷蔵庫に麦茶のパックしかなかった、食べられないかと思って、炒ってみたけど、あれは食えなかったなあ。

「ふーん。たいへんだったんだねえ。何でお金がなかったの?」

 バアバの家はそこそこ裕福だ。仕送りだってあっただろう。

 いろいろあってさ、主に、ゲーム、ゲーム、ゲーム……、セガサターン、ドリームキャスト、プレステツー、ゲームか、何もかも皆懐かしい。

 「自業自得じゃない」と私があきれた声でいうと、砂糖しかないときもあった、そのときはべっこう飴をフライパンでつくって、飢えをしのいだなあ、臨時の仕送りがないか、ATMに見に行って、口座がすっからかんだったときの絶望感、ああ、いま思い出すだけでも苦しいと、おじちゃんがうめいた。

「なら、いまは幸せじゃない。サバ食べ放題だし、もう少ししたら、実験も終わるわよ」

 私がなぐさめると、おじちゃんは、そうかもなあとしぶしぶ同意した。

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