あれこれ、いろいろ(二)
野田先生の家庭教師の日に、こういう話があった。
私がむずかしい数学の問題を解いていると、先生が水槽の中のおじちゃんを見ながら、「そういえば、イチカちゃん。ザリガニって、サバばかり食べさせると、色が青色になるって、知ってた?」とつぶやいた。
私はシャーペンを動かす手をとめて、「そうなんですか。知らなかった。見てみたいな~」と応じた。すると、先生が「本当に色が変わるのかな」と言った。
ふたりの視線がおじちゃんにそそがれたが、当のザリガニは、ラフマニノフの交響曲第二番に夢中で、話を聞いていないようだった。私が勉強をしている間は、勉強の邪魔にならないクラシックを流す約束になっていた。おじちゃんは、ラフマニノフの交響曲第二番とリストの編曲した第九が好きで、このふたつばかりを流していたが、よく飽きないものである。
うん、どうした、イチカと、異変を察知したおじちゃんが話しかけてきた。
「おじちゃんって、サバばかり食べると、青色になるんだってね」と私が言うと、まっさかあ、アバターじゃあるまいしと、おじちゃんが意味不明なことを口にした。
そこに、北城屋の和菓子をもって、バアバが二階に上がってきた。
「何の話をしているの」と聞いてきたバアバに私が説明をすると、ザリガニの母親は「あら、おもしろそう。一回、試してみましょうよ、タカル」と水槽の中の息子に声をかけた。
ええー、嫌でござると言うおじちゃんに、「おじちゃん。いいじゃない。一回だけ。お願い」と言いながら、私は手を合わせた。すると、おじちゃんは、動画にあるだろう、それをみればいいじゃないかと抵抗してきたので、私は「生で見たいの、私は」と駄々をこねた。すると、おじちゃんはしばらくの無言ののち、イチカのお願いじゃしかたないなーと、「サバを食べるとザリガニは本当に青くなるのか」実験に付き合ってくれることになった。
しかし、スマホを操作していた野田先生が「一か月くらいかかるみたいですね」と言うと、ええー、そんなにー、やっぱなしとおじちゃんが言い出し、暴れはじめた。それには、私の涙ウルウル作戦も通じなかったが、権力者であるバアバの「男が一度やると決めたことはやり遂げなさい」の一言で、事は決した。
俺は男である前にザリガニなんだよーという、おじちゃんの悲痛な叫び声を無視して。
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