あれこれ、いろいろ(一)

 屋根裏部屋で、私は長机の前に坐り、その机の右側に置かれている水槽に向かって、星新一の「牧場都市」を音読していた。それをだまって、水槽の中のアメリカザリガニが聴いていた。

 短編を読み終えると、ザリガニがテレパシーで私にため息まじりに言った。あー、星新一の食べ物の描写は癒されるなあ、ああ、ケンタッキーが食べたい、マックのフィレオフィッシュにかじりつきたい、マックシェイクが飲みたい、コーラが飲みたい、イカのお刺身が食べたい、納豆ご飯と卵かけごはんが食べたい、茶碗蒸しが食べたい、ほっともっとのカットステーキ重が食べたい、辛ラーメンをすすりたい、あれ食べたい、これ食べたい、もっと、もっと食べたい、俺には夢がある、I have a dream。

 おじちゃんが壊れてしまった。まあ、もともと壊れてはいたが。だって、ある朝、目が醒めたら、ザリガニになっちゃってたんだもの。そりゃ、壊れているわよね。

 イチカー、おいちゃんは苦しいよ、だって、毎日、毎日、サバばかり食べさせられているんだからさ、もう限界だよー、いやになっちゃたよ、ほかのものも食べさせてよー、とザリガニが訴えてきた。それに対して、私は分厚い「星新一 ショートショート1001」の二巻を本棚に戻しながら、「だめよ。約束したじゃない」とすげなく言った。

 ああ、もともとは野田くんが余計なことを言ったから、こんなことに、今度、やってきたら、大事なところをちょんぎってやると、おじちゃんが両の鋏を広げて息巻いた。

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