スクエア(二)
バアバが、洗った水槽を、いつもの定位置、長机の右側に置いた。それから、おじちゃんを中に入れて、ペットボトルの水を注いだ。
水槽の底には、むかし、おじちゃんが私に買ってくれた青いビー玉が入っている。それが水の流れを受けて、ころころと揺れていた。
水はサントリーの天然水かい、母さん、天然水じゃなければいやだよと、おじちゃんが言うので、私は注がれているペットボトルのラベルを見て、「大丈夫、天然水よ」とザリガニに教えてあげた。
母さんはうっかりすると、たまに硬水を買ってくるからな~、あれは何だか体がちくちくするんだよ、やっぱり、水は軟水にかぎる、お肌がすべすべすると、おじちゃんが言ったので、「すべすべというか、ぬめぬめよね、おじちゃんの表面って。触るとちょっと気持ちがわるい」と私は言葉を返した。
すると、おじちゃんではなく、バアバが「そういうことを言うもんじゃないわよ。ほら、タカルが傷ついてるじゃない」とたしなめてきたので、私は本心とは別に「ごめんね、おじちゃん。悪気はないのよ」と、水槽の中でこちらに背を向けているザリガニに頭を下げた。実際に傷ついていた様子のおじちゃんは、悪気がないのがなおさら悪いよーとつぶやいた。
「ふー、きれいになった」と言いながら、バアバは水槽の表面を雑巾で拭き終えると、「さあ、晩御飯を作らなくちゃ」と下に降りて行った。よく働く人だ。働くのが好きなのだろうか。
疑問をおじちゃんにぶつけたところ、昔から、じっとしていられない人だからねーと答えが返ってきた。
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