生きるということ(五)

 そういえば、もうひとつ、怖い話というか、奇妙な話があったと、肉片を鋏で切りながら、おじちゃんが言った。

 「まだ、話をつづけるの?」と私が辟易とした声で言っても、おじちゃんは無視した。

 イチカ、右を向いてごらんと言われたので、その通りにしたら、駐車場を挟んで、マンションが見えた。

 実は、そのマンションから、学校の成績に悩んでいた学生さんが飛び降りたことがあったんだ。

「ええっ、それは知らなかった。それで?」

 いや、おいちゃんも知らなくてさ、たまたま、大島てるの事故物件サイトを見ていたら、載っていたんだよ、おいちゃんが県外にいたときの話だったから、バアバに聞いたんだ、そしたら、バアバがそんな話は知らないと言い出した。しばらくしてから、大島てるのサイトをもう一度見てみたら、記事は消えていた。

 おじちゃんの話に、「また、見まちがえたんじゃないの?」と私があきれた声で言うと、おじちゃんはむきになって、確かにあったんだよー、信じてくれよ、イチカーと、おじちゃんがケンタッキーを食べる手を止めながら叫んだ。


 ケンタッキーの匂いが充満する部屋の中で、私とおじちゃんがむしゃむしゃと鶏肉をほおばっていると、おじちゃんが言った。

 姉さんは相変わらず、片付けが下手かい、ものは増えていないかい、それも、引っ越しをする理由のひとつなんだろう、おいちゃんが県外から家に戻って来た時、おいちゃんの部屋も姉さんの部屋も、ガラクタとごみで足の踏み場もなかったからなあ。

「たしかにね、それも引っ越しする理由のひとつね。私も片づけるの苦手だし」

 ご名答か~、しかし、イチカが引っ越しちゃうと、おいちゃんはずいぶんとさみしくなるな。

 私は「うん?」と言ってから、笑顔で「そんなことはないわよ、たまには遊びに来るわ」と答えた。すると、おじちゃんが本当にさみしそうに、たまにかーと体を丸めた。

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