ひらひら(二)

「中学生になんてもの読ませるのよ」

 私は音読したマンガを机の上に叩きつけた。それに合わせて揺れる、水槽の中のおじちゃん。

 やーめーろーよー、ゆーれーるー。

 水面の揺れが収まると、おじちゃんが言った。おこちゃまのイチカちゃんには、まだ早かったかな、でも、おいちゃんも中学二年生のとき、深夜のアニメで観て、ショックを受けたなあ。

「でしょう?」

 それで給食の時間に、担任の安部先生にあらすじを説明したら、先生、嫌な顔をしていたな、それにしても、先生元気かな、中学の時は楽しかったなあ、嫌なこともたくさんあったけど。

 「ふーん」とだけ、私が感想をもらすと、イチカ、結束バンドの、あのバンドが聴きたくなってきた。かけてくれよ。

「唐突だし、今日は注文が多いわね。でも、いいわ。私も勉強する気ないし。あーあ、なんで、古文なんてものがこの世にあるのかしらね。ねえ、おじちゃん、古文って、なんで学校で勉強しないといけないの。もっとジツガクっていうかさあ、教えたほうがいいことなくない?」

 私がスマホを操作しながら言うと、そうだなーと言いつつ、でも、古文もいいものだよ、おいちゃんは好きだな、とくに伊勢物語がと、おじちゃんが返事をした。おいちゃんは、ついにいくみちとはかねてききしかど、きのうきょうとはおもはざりしをっていう和歌が好きだな、おまえも、からころもきつつなれにしつましあれば、はるばるきぬるたびをしぞおもうは、知っているだろう?

 「知ってる。遠足で知立に行った時、マンホールに書いてあった」と私が答えると、知立の八橋が舞台だからね、ああ、藤田屋のチーズあんまきが食べたくなってきた、よく知立駅で買ったな、母さん、買って来てくれないかなとおじちゃんが応じた。

 すると、しばらくして、バアバが二階へ上がってきた。私は急いで、スマホを消して、古文のプリントに目をやった。

「ちゃんと宿題してる? タカル、マックのフィレオフィッシュ買って来たわよ」

 そう言いながら、バアバは、おじちゃんの水槽の前に、紙袋を置いた。

 おじちゃんは両手を大きく広げて、わーい、ごちそうだと喜んだ。それを伝えると、バアバは「あら、そう」と喜んだ。バアバはおじちゃんと会話ができない。

 おじちゃんが藤田屋のチーズあんまきを食べたがっていることを伝えると、「今度、アピタで出店を見つけたら、買って来るわ」と言いながら、バアバは下へ降りて行った。

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