おじちゃんと私(五)
宿題を提出して、しばらくした放課後、私は国語の岸田先生に職員室へ呼び出された。
先生の机の上はきれいに整頓されており、閉じたノートパソコンのうえに、私が書いた宿題の原稿用紙が置かれていた。
「六文銭」と、先生がため息まじりに私の名字を呼んだ。「はい」と私が答えると、先生は再度ため息まじりに言った。
「おもしろかったよ。おまえの文章。でもな、これ、おまえ、書いてないだろう。プロレタリアートなんて言葉を使う中学二年生、先生嫌だよ。おまえ、プロレタリアートって、どういう意味か知ってるのか?」
先生の言葉に、私は戸惑いつつ、「労働者ですか?」と答えた。
「……それで、だれに手伝ってもらったんだ?」
「……お、叔父です。でも、少しだけです。勉強していると横から口を出してくる困った人なんです」
「ふーん。一度、会ってみたいな。話が合いそうだ。グレゴール・ザムザ氏に。仕事はなにをしているんだ?」
「いまは無職だと思います。おれは社会で無色透明なんだって、この前、笑ってました」
「……そうか、おまえも叔父さんもたいへんだな」
「はい」
「まあ、いい。今回は、文章のおもしろさに免じて許してやろう。その代わり……」
「その代わり?」
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