おじちゃんと私(三)

「おじちゃん、どうしよう。国語の宿題が間に合わないよ。まだ、頭が痛いのに」

 風邪で学校を休んでいた私は、三月二日の夕暮れ時、おじちゃんに泣きついた。

 それに対しておじちゃんは冷静な声で、何の心配もないと言った。暇だったから、イチカが来ない間、おいちゃんが宿題を考えておいた。それを書いて提出するんだ。

 国語の岸田先生怖さに、私は半泣きになりながら、おじちゃんの言うとおりに書きはじめた。

 「吾輩はアメリカザリガニである……って、これ、パクリじゃないの?」と私が文句を言うと、著作権は切れております、チョキチョキと、すました声で手を動かしながら、おじちゃんが言った。

 おじちゃんの屋根裏部屋なら、犬がわるさをすることもないと、横でひな人形の準備をしていたバアバが、口に出しながら原稿用紙を埋めている私の様子を見て、「大丈夫かしら」とひとりつぶやいた。


 おじちゃんの部屋にはテレビがない。おじちゃんは、もともと、さんまのお笑い向上委員会という番組しか観ていなかったそうで、それは、おじちゃんの部屋の真下にある、一階のリビングのテレビで観ていた。そのため、バアバは、一週間に一度、おじちゃんの水槽をリビングに持って行って、録画した向上委員会を見せていた。「タカルは楽しんでいるかい」とバアバにたずねられたとき、私が「うん。マヂラブの村上のガヤがうるさいけど、新城市出身だから許しているそうだよ」と答えると、ザリガニの母親は「そう。それはよかった」とさびしげに笑った。

 テレビはないけれど、人間だった頃のおじちゃんはゲームが好きだったから、アイ・オー・データの49インチのモニターを部屋に置いていた。おじちゃんと私はよく、スプラトゥーンやマインクラフトで遊んでいた。少ないボーナスで、このモニターをアマゾンの特売で買ったとき、おじちゃんはとても喜んでいた。でも、いまはザリガニなので、ゲームはできない。

 そのいまは使われていないモニターの前に、バアバがひな人形を組み立て終わったとき、私の口述筆記もちょうどよく終わった。

 おじちゃんが最初に考えた文章では文字数が足りなくて、インターネットでいろいろ調べたりして、かさましするのがたいへんであった。

 シャーペンを机の上に置き、原稿用紙を一読した私は、「これ、大丈夫かな」と心配になったが、「まあ、いいか。岸田先生以外、読まないだろうし」と気を持ち直した。私の様子を見た、おじちゃんは、なに、心配ないさと鋏で胸を叩いた。まったく、安心できない気分になった。

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