第3話 ニンフ02の救援【KAC20241+】

 ニンフ乗りにとっては聞きなれた特別任務呼び出し音の後、通信が開始される。


 ◇こちらは共和国軍戦略AIイヴです。ミッションの説明をします◇


 戦略AIイブの涼やかな声と共に、空間ディスプレイに映る首都近郊の地図が青いN、黄色いE、白いW、赤いSの四つのフィールドに色分けされると、赤いSフィールドが拡大されて大まかな地図に点で戦力分布が表示される。


 表示された敵味方の戦力は大量の敵暴走機械に対し、こちらはニンフ二機のみ。


 戦力分布図に表示される二つの白点と無数の濃い赤点が、状況を一目で教えてくれた。


 ◇今回のミッションは時間稼ぎです。首都防衛戦艦の到着まで耐えてください◇

 

 Sフィールドが更に拡大されると、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに対してたったの一機で戦う蒼い人型の機体KAC-24ニンフが映し出された。


 ◇ニンフ02には先行しているニンフ01の救援を任せます◇


 押し寄せるバッファロー型ロボットをバッタバッタとなぎ倒すニンフ。しかし、何故か遠距離武装は使わずにエネルギーソードのみで戦っている。


 ◇あなたには苦労を掛けますが、よろしくお願いします◇


 心底同情したような戦略AIの声と共に通信は打ち切られた。


「マジ受けるんですけど。あたしを置いて行ったクセに追い詰められてやんの」

 □ニンフ02、そんなことをしている場合ではないぞ。急がないと□


 通信が終わるまで必死に笑いをこらえていたニンフ02は、爆笑しながら手袋を外してマニキュアを塗りはじめてしまう。それを見咎めた戦闘AIは窘めるが、爪に息を吹きかけた女は頬を上げて反論した。


「フォルテぇ、01があの位でやられるはずないっしょ? 乾くまでちょいかかるし」

 □しかしだなぁ……僚機の戦闘AIとしては□


 それでも言い募る戦闘AIフォルテに対し、手袋をつけることなく操縦桿を握ったニンフ02は号令をかける事で黙らせた。


「あーもう。うるさい! ニンフ02エンゲージ! やればいいんでしょ!」

 □おい、まだ話の途中で……。システム戦闘モードに移行します□


 戦闘モードに移行したフォルテと共に、ニンフ02の駆る戦闘機も暴走機械との戦闘に適した人型へ変形する!


 手足が極端に細い人型と成ったKAC-24ニンフは、胸部に変形したウェポンベイから巨大なライフルを二丁取り出すと奮戦する僚機の元へと突撃した。


「邪魔、邪魔、邪魔、邪魔!」

 □対艦ライフル二丁・肩部エネルギーキャノン起動。デスバッファロー四機撃破□


 突撃しながら両手に握る巨大なライフルと両肩の巨砲を連打するニンフ02は、縦横無尽に駆け回る機械牛達を瞬く間にスクラップに変えて破壊する。


 ■流石はニンフ02だ。戦闘力だけで最新鋭機部隊に抜擢された頭のおかしい女■

「頭のおかしいは余計だってっのっ! っそらぁ!」

 □対艦ライフル一丁パージ。エネルギーソード起動。デスバッファロー損傷多数□


 その戦果に思わずサブモードを起動したフォルテの呟きに対し、即座に怒りの声を上げたニンフ02。彼女は片方のライフルをニンフ01の元へ投擲しながら、腰のエネルギーソード発振器を引き抜くと、地表スレスレを飛行しつつ、逃げ惑う機械牛達を切り刻んでいく。


 =ほいっと、助かるぜ02! ■感謝するわ。ニンフ02■


 ひょいと飛び上がってライフルを受け取ったニンフ01は、ニンフ02に切り刻まれた機械牛達をカモ撃ちにしていく。


 その元気な様子を見たニンフ02が、それ見たことかとフォルテを煽るので冷血なはずの戦闘AIからも悪口……戦略的に見た評価が零れてしまう。


 □デスバッファロー僚機のアシストにより撃破多数□

「ほ~ら、全然元気じゃない。クーリアには同情するケド」

 ■独断専行男と頭のおかしい女。最悪のコンビだ……■


 ニンフ02の突撃により混乱に陥っていた機械牛だったが、依然数の上では敵の方が多く段々と統制を取り戻し再突撃をしてくる!


 軽口をたたいているが、実は両者とも連続のミッションによりエネルギー残量が大きく減っており、状況が良い訳では無い。


 危機的な状況だ。


 危機的な状況ではあるが、そんな彼らの余裕の理由が上空に突如として現れた。


 =こちらは戦艦ディルヨンの艦長ヨンだ。たったの二機でよく耐えてみせた!


 現れたのは巨大な尖塔を三本横に並べたような姿の飛行物体。


 尖塔の根元では上下左右に巨大な砲台の並ぶ箱がスラスターを噴き出し、その巨体を支えている。


 □デュークシアー級戦艦ディルヨンのステルス解除を確認。ミッション成功□

「ふぅん? シアちゃんならボーナスタイム。来ちゃうかな?」


 =ONオーエヌビーム照射承認! 受け取れ!


 艦長の叫び声と共に、戦艦ディルヨンの砲の一つから桃色の閃光が迸る!


 その矛先は敵暴走機械! ……ではなく敵が迫ってきているニンフ達!?


 天からの一撃を避ける事もなく受け続ける彼らの機体は、何故か破壊されることなく桃色に燃えている。


 =よし来た! ボーナスタイムだな! ■ほどほどにねニンフ01■


「来た来た来たぁっ! お祭りよ!」

  ■ニンフ02、調子に乗って余計なものを壊さないように■


 桃色に燃える両機は消耗していたのが嘘のように、ふわりと浮かび上がる事で機械牛の突撃を回避。更に肩の巨砲を光り輝かせてお返しとばかりに照射を開始した。


 ONオーエヌビームは機械のエネルギーを補給するビームだったのだ!


 閃光で敵を大地ごと薙ぎ払いながら飛び回る彼女たちの姿は、気まぐれな神そのもの。


 数分後、無数の暴走機械は沈黙し荒れ果てた大地だけが残された。

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