同人即売会を守れ!

赤城ハル

第1話

 今日は関西で有名な同人即売会の日。関西のみならず、関東……いや、世界からクリエーターが集まる。

 そして目当てのサークルのために毎年万単位の来場者が押し寄せてくる。

 彼らは徹夜をし、開場されると目当てのサークルは向け猛ダッシュ。

 こけて大怪我をする者。そして踏まれる者。

 割り込み問題で喧嘩をする者。

 盗む者。取り上げる者。

 様々なトラブルが押し寄せくる。

 そんな彼らをきちんと誘導させるのが──。

「いいか! あと少しで開場だ! 押し寄せてくる者に常識とマナーを思い出させてやれ!」

『はい!』

 そう。即売会スタッフである。

 皆、屈強と荘厳な顔つきで現場責任者の訓示を一言も残さずに聞いている。

 それはまさに歴戦の猛者のように。

 ここには遊び感覚で即売会スタッフをしている者はいない。

 優しさと熱い思いを持ち、この日を待ちに待った来場者を満足させることをモットーとしている。まさに同人即売会のかがみである。

 と、そこへ1人の女性事務員が何か慌ててやってきた。

「た、大変です!」

「なんだ?」

「む、群れで向かっています! 駅を抜けて、こちらに一目散に向かっています」

「どういうことだ?」

 駅からここに来るまでには北側ゲートを通らなくてはいけない。

 そしてそれまでの道には一切の徹夜を禁止している。

 さらに今は早朝の時間。まだ始発は来ていないはず。

 現場責任者は腕時計で時間確認する。そして念の為、スマホでも時間を確認する。

 双方まだ6時10分。

 始発はまだのはず。

「東側ゲートの徹夜組が移動したのか?」

「違います」

「では、どこから来たのだ?」

「分かりません。突如としてが現れました!」

「バッファ……ええ!? バッファロー!?」

 現場責任者は目を見開き、驚いた。

「はい。バッファローです」

 スタッフ達にも動揺が広がる。

「まさか今年はバッファローの年だったのか」

 現場責任者は一歩後ろへとよろめき、衝撃の出来事に思い悩む。

 バッファロー。

 それは同人即売会の腐のエネルギーが溜まると現れるという現象。

 しかし、昨今は東の即売会や新たに生まれた即売会によって腐のエネルギーは分散され、バッファロー現象はないも等しいものだったはず。

「どうして? 去年何かあったのか?」

 腐のエネルギーは集まった年ではなく、来年に爆発する。

 つまり去年の年に大きく腐のエネルギーが集まる何かがあったのだ。

「昨年にコロナがインフルと同じ5類に引き下げられ、盛況だったことが原因かと」

 女性事務員が答える。

「クッ!」

 現場責任者はスタッフ達に向かう。

 スタッフ達は現場責任者の言葉を固唾を飲んで待っている。

「いいか! よく聞け!」

 現場責任者は声を張り上げた。

 閉鎖的な空間ゆえ声は反響する。

「今年はバッファローの群れが来る。やつらは全てを破壊して突き進む。我々は盾を持ち、迎え討つ! 怖い者、逃げ出したい者はここを離れるがいい。誰も文句は言わない。臆病とは言わない」

 だが、離れるスタッフは1人もいなかった。

 皆、決意を決めた勇敢な顔つきでじっとしている。

 そんな彼らを見て、現場責任者は心の中で強く感謝した。


  ◯


 その日、勇敢なスタッフ達は即売会を守るために獅子奮迅し……敗れた。

 人の手ではバッファローの群れを抑えることはできなかったのだ。

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