隣の席の佐藤と俺
板谷空炉
隣と席の佐藤と俺
隣の席の佐藤には、三分以内にやらなければならないことがあった。
そして佐藤は今、賭けに参加させられそうになっている。
放課後にクラスメイトに告白し、上手く行ったらネタだとバラす。その企画を、クラスの陽キャ男子たちに「やれ」と言われている。上手く行ったらあいつはイイコトを陽キャ男子たちのツテで教えて貰えるらしい。しかし、うまく行かなかったらパシリ継続。今のところ、パシリに軍配が上がっているようだ。
だけど、俺は知っている。
担任に「昼休み始まってから、三分以内に職員室に来い」と言われていたことを。
そして今は、陽キャ男子たちに脅迫されてから、即ち昼休み開始してから二分経過している。
職員室は同じ階の反対側の棟だから、早く行かないと担任に怒られる可能性だってある。
断れない佐藤も佐藤だ。しかしそれを逆手に取って支配しようとしている奴らはもっと酷い。
ああ、気に障る。
「おい」
陽キャ男子たちに言う。
「何だよお前」
「俺等に何か用かよ」
急に会話に入ってきたことに奴らはイラついていた。でもどうでもいい。
「ちょっと佐藤借りてく」
そうして佐藤の腕を引っ張り、廊下へ向かう。
「え!?」
佐藤はとても驚いていた。しかしそれと同時に、
「は?」
「何だあいつ」
「もしかして佐藤のこと……?」
と、ざわめきが起こり始めていた。
「あの、井上く」
「走るぞ」
佐藤の腕を引っ張りながら走り、職員室へ向かう。
「お前、あんな賭け断れよ」
「無理だよ……だって怖いし。それに、こんなチャンス二度とないから」
本当にこいつは、優柔不断だ。
「だったら俺に告白しろ。そしてテキトーに付き合ってるフリでもすりゃいいだろ」
「え!?」
……? !?
俺、勢い任せで何を言って──
「井上くん」
「佐藤……?」
職員室の近くに着いたのもあってか、佐藤は足を止めた。
「さっきの、本気にして良いんだよね?」
は!?
「いやそれは、勢いというか、言葉の綾というか」
ちゅ。
……!?
今俺、佐藤とキス……
「よろしくね、井上くん」
「え、いやそれはあの」
もっとして欲しかったなんて言えな──
「二人共、そこで何やってるんですか?」
は!?
背後に担任がいた……。殺してくれ。
隣の席の佐藤と俺 板谷空炉 @Scallops_Itaya
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