第13話 泡
「金曜日で、さよならですね。お別れのことばを言い合って、さよならにしましょうか」と言われました。ぼくは、嫌です、と答えました。「どうしてですか?」とそのひとは、不思議なかおをして、聞いてきました。「もう、会えなくなるのが嫌です」と答えました。自分でも、わがまま言ってるなあ、と思ってました。さよならは、さよならです。人生には、別れがつきもの。そんな、たびたび、別れを悲しがっていたら、身がもちません。でも、さよならが、嫌だったんです。「上のひとに許可をとっておきますね」と、そのひとは、言いました。これほど、ストレートに女性に気持ちを伝えたことが、いままであったでしょうか。なかったです。いつも、ぼくは、二の足を踏んで、気持ちをごまかしてました。気持ちが伝わった。それだけで、安心しました。そのひとは、それ以上、なにも言わなかったです。沈黙が、心地良かったです。これほどまでに、女性と一緒にいて、心地いい沈黙があったでしょうか。
でも、どうしようもないことでした。もう、近い関係にはなってはだめ。最初から、決まってたんです。
世の中にいくら、逆らったところで、どうしょうもならない。そのひとは、世の中の動きに忠実でした。
ぼくは、そのひとを応援すべきか、考えました。そのひとは、自分の将来というものを見据えている。ただ、成長していくなかで、自分の夢を大切にしているひとでした。ぼくは、きっと、そのひとを応援すべきなんでしょう。これ以上、邪魔したら、あのひとの将来が危うくなる。
こんど、また、どこかで会えたとしても、ぼくが、そのひとにどうこうするものでありません。愛のことばを伝えることも、言ってみれば、セクハラになってしまうでしょう。
悩みました。ジャズを聴きまくっていました。でも、答えが見えてこない。ぼくもまた、世の中の動きに従わなければならない。なにも、手につかなくなりました。やる気が起きません。
姉と、車に乗っていると、ラジオが鳴ってました。涙がこぼれそうになりました。えーい!もう、泣いてやれ!泣いてしまって、スッキリしちまえ。家に帰って、思い出の曲を聴きました。完全に泣いてしまいました。泣いたって、なにも変わらない。わかっていましたが、泣きました。
これで、終わりです。別れは、涙で飾るもの。文字どおり、涙で飾りました。だから、泣いたって、わめいたって、なにも変わらないんです。そっと、そのひとのことを想い続けるしか。それで、すべて、終わってしまったんです。涙は、海へと流れ着き、やがて、ぼくも泡となって、あのひとの前から、消え失せることでしょう。あのひとを、そんなことがあったこも忘れて、しあわせになってく。ぼくの恋は、終わったのでした。
雨が降っても、やんでも、ずっと一緒にいたかった......
置き手紙 林風(@hayashifu) @laughingseijidaze4649
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