第2話

「全てを……何だって?」

「だから、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが全てを破壊しながら突き進んでいるんですよ! 警部!」

「すまない佐藤。お前が何を言っているのかまったくわからない」

 佐藤は焦れたように自分の携帯の画面を俺のほうへ押し付けてくる。ディスプレイには、バッファローの群れが地を駆け、空を飛び、東京のビル群を薙ぎ倒している様が映し出されていた。

「……佐藤。これは、何だ、昨今流行りになっているAI生成画像って奴じゃないのか。拡大したらちょっとだけ画素が粗いんじゃないのか。現実にこんなことが起こるはずがないだろう」

 段々佐藤のことが心配になってきた。今携わっている事件が片付いたら、何とかして休暇を取らせてやらなければ。

「いや、でも、警部! このニュースサイトを見てください。どうやら東京だけではなく、世界中でバッファローの群れが全てを破壊しながら突き進んでいるようですよ!」

「そんな訳ないだろ!」

 サイトを見た。本当にニュースで報道がなされていた。

「そんな訳ないだろ!」

 思わず同じ言葉を繰り返してしまった。いや、しかし、俺は実際にこの目で全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを見てはいない。なのに、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れの存在を信じることなどできない。

 


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 ふたたびの轟音。しかも今度はより大きい。

「警部! 見てください! バッファローです! バッファローの群れが!」

 佐藤が窓のほうを指した。釣られて窓を見ると、そこには、百頭を優に超える数のバッファローが、空中を縦横無尽に動き回りながら、ビル群を次々に破壊している光景が広がっていた。

「夢だ……俺は夢を見ているんだ……」

「警部、しっかりしてください。これが現実です」

 お前は何を言っているんだ。そんな訳ないだろ。



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド



 茫然自失の俺となぜか悟ったような顔をした佐藤のもとに、バッファローの群れが突っ込んできた。

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