とりあえず2

眞壁 暁大

「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ」

 アンバサダーからの挑戦状(自由挑戦お題)、とのことである。

 ふむん。

 イメージは浮かぶ。

 吹きすさぶ風。転がるタンブルウィード。縁の褪色した瑞々しさのないサボテン。そんな荒涼の大地のはて、地平線の向こうから土煙をあげながら突進してくる黒い蠢き。

 そんな絵面だ。


 しかしここまで思い浮かべてふいに気づく。

いま自分が想起したイメージ、そのバッファローの群れは、行く手を阻むあらゆるものをなぎ倒し、突き崩して突進してその瓦礫から砂煙がもうもうと上がっている…

 そんなイメージだった。


 それは、「すべて」ではないのではないか?


 たしかにバッファローの群れは行く手を阻むあらゆるものは破壊している。

しかしどうだ。

彼らは自らが踏みしめている大地そのものを破壊してはいない。俺のイメージの中では。

 はたしてそれは「すべて」を破壊していると言ってよいのか?

 行く手を阻む「あらゆるもの」は破壊しているが、それは「行く手を阻む」という条件が設定されている。


 それは果たして「すべて」と言ってよいのか、どうか。


 彼らの突進を阻むことは出来ない、何人たりとも、神でさえも。

 そのような意味であれば、彼らはすべてを破壊して突き進んでいると言ってよいかと思う。

 だがそれは、彼らが進むためにいま踏みしめている大地あってこそ。

 彼らがどれほど突き進もうとも、彼らが踏みしめてきた大地は揺るがない。

 土煙が収まったあとに残る瓦礫は想起できるが、その瓦礫がうず高く積み重なっている大地そのものは揺るがない。


 果たしてこれで俺は

「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ」

 を想像できたと言えるのであろうか?


 否。

 だんじて、否。

 

 より踏み込まねばならない。想像せよ俺。

 バッファローの群れは、その角の先から、爪先まで、触れるもの全てを破壊しているのだとより深く、より強く想像しなければならない。

 角はその表面をうねる空気すらも切り裂いていく。

 蹄は一歩一歩、踏み込み下ろすたびに大地を突き崩していく。

 前に進んでいたはずのバッファローの群れはやがて、踏み込むたびに崩れていく地の底へと駆け下りていく。

 やがて踏み込むべき大地すらも破壊しつくし消え失せた後はどうなる?

 バッファローは、ある一点でくるくると虚空を藻掻くようにしてのたうつようになるのではないか。

 すでにおのれ以外のものを破壊し尽くしてしまったバッファローの群れ。

 行く手を阻むいかなるものもなく、踏みしめる大地も消え果ててしまった。

 なおも残る破壊衝動はどこに向ければよいのか。

そこで互いに角突き合わせて、最期の一頭になるまで潰し合うのか、群れは群れを維持したまま奈落の中空でただジタバタと足掻くだけなのか。

 吾以外の全てを破壊しなければならないという衝動に従うのであれば最期の一頭になるまでの争いとなるのだろうが、「バッファローの群れ」が群れとして自己を認識しているのであれば、群れを構成する個体が一つでも欠けることのないように振る舞うものと思う。

 バッファローの自己認識までは想像できないので、ここで終わりとしたい。


 ただ私見でいえば、バッファローの群れ、と指定された以上、虚空で全てを破壊し尽くしたバッファローたちが、方向感を喪失してあちこち無秩序にあがき浮遊しているサマのほうが好みかな、とは感じている。

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