第77話 作戦会議

 クラッセル子爵が私に秘密にしたいこと。

 グレンの魔法のおかげで知ることが出来た。

 一緒に聞いていた二人も、途切れる直前に聞こえた内容に反応する。


「なあ、クラッセルさんがルイスを呼び出したのは――」


 グレンが沈黙を破る。


「ロザリーが孤児院で起こった酷い事件を知りそうになったから、なのか?」

「そうだと思います」


 グレンの疑問に私は賛同する。

 私が書いた手紙を勝手に処分したのも、ルイスを屋敷に呼び出したのもトキゴウ村の孤児院が関係している。

 そして、私に隠したいことはそこで起こった”凄惨な事件”。


「お姉さま、なにか知っていることはありませんか?」

「何も――、あっ」


 私はこの中で事実を知っているかもしれないマリアンヌに訊ねる。

 彼女は孤児院の凄惨な事件と聞いて、ピンと来たことがあるようだ。


「ロザリーを養女にしてから、お父様、トキゴウ村に行かなくなったわね」

「お義父さまは、よくあそこに行かれてたのですか?」

「ええ。だって、お父様はトキゴウ村の孤児院出身だから」

「えっ!?」


 クラッセル子爵が元平民で養子だったことは知っていたが、まさか、トキゴウ村の孤児院の出だったとは初耳だ。


「知りませんでした……」

「トキゴウ村で慈善活動をしていたのも、孤児だった頃、お世話になったからだそうなの」

「そうだったのですね」


 またクラッセル子爵と共通する点があるとは思ってもみなかった。


「私はロザリーと出会った年しか、同行したことないのだけど」

「どうして慈善活動はその年で終わってしまったのでしょうか」

「さあ。この話が今の話題と関係しているかは分からないわ……」

「きっとあると思います。お話してくださりありがとうございます。お姉さま」


 マリアンヌが思い出したことが今の話題と繋がっているかは分からない。

 でも、手掛かりにはなっているはず。

 私はマリアンヌにお礼の言葉を告げた。

 彼女は私の言葉にニカっと笑った。


「真面目なロザリーが悪だくみに乗ったのも、お父様が秘密にしていたことを知りたかったからなのでしょう?」

「はい。その通りです」

「俺は、これから複雑なことに巻き込まれそうで、ひやひやしてるけどな」


 グレンは顔をしかめ、胸の内を明かした。

 家族でもなく、居候である彼にとって全く関係ない話だ。

 だが、聞いてしまったからには私たちに協力しないといけないという気持ちが彼の中に芽生えたみたいだ。


「ロザリー、貴方はどうしたいの?」

「私は――」


 マリアンヌは私に問う。

 クラッセル子爵とルイスが私に秘密にしているのは、真実を私が知った時、辛い思いをするからに違いない。

 知らない方が幸せ。

 だからトキゴウ村の孤児院の話題を私から遠ざけようとしている。

 私は息を吸って、気持ちを落ち着けた後、マリアンヌとグレンに胸の内を話した。


「知りたいです。トキゴウ村の孤児院で暮らしていた身として知らなければいけないと思うのです」

「そうなるよなあ……」

「じゃあ、街の図書館で調べてみま――、あっ」

「お姉さまは”外出禁止令”が出されていましたね」

「……ごめんなさい。で、でも! お父様から情報を聞き出してみるわ!!」


 事件について知るには、クラッセル子爵とルイスの口を割らせるよりも、街の図書館へ行って、過去の事件を調べるのが手っ取り早い。

 マリアンヌは私たちにそう提案したが、自身がクラッセル子爵から”外出禁止令”を出されていることを思いだし、しゅんと肩をすくめた。


「無理だと思うけどな」

「それはやってみないと分からないじゃない!」


 グレンがマリアンヌの発言に口を出す。

 彼の言う通り、その作戦は失敗に終わると思う。

 突然、トキゴウ村の話題がマリアンヌの口から出たら、クラッセル子爵は警戒するだろうし、下手をしたら、追及され、盗み聞きの件がバレてしまうかも。


「気持ちは嬉しいですがこの件は慎重に進めたいので、お姉さまは普通に振舞ってください」

「……ロザリの言う通りにするわ」

「ありがとうございます」


 マリアンヌに大人しくするよう説得すると、彼女はすねた顔をしつつも、納得してくれた。


「なら、明日は町に出かけないとな」

「五年分の事件を一人で探すのは難しいので――」

「ああ。最後まで付き合うよ」

「ありがとう」


 次の行動は町の図書館へ行って、五年分の事件記録の中からトキゴウ村の孤児院について調べること。

 たとえ、見たものを一瞬で覚える能力があったとしても、一人で探すのは難しい。

 グレンがついて来てくれるのは心強い。


「じゃあ、ルイスとの会話が終わるまで、異性交流に厳しいクラッセルさんから、どうやって外出許可を出してもらうか、考えようぜ」

「そうね」


 グレンと二人きりで出掛ける口実。

 それもクラッセル子爵が認める理由。

 私たちはコンコンと部屋をノックされるまで、そのことについて真剣に話し合っていた。 

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