第48話 真相
リリアンから耳飾りを返して貰ったマリアンヌは、それをポーチの中へしまう。
「ロザリー、私がここへ来て、驚いたわよね」
「はい! お姉様はどうしてここに、それにその制服はーー」
「聞きたいこと、沢山あるわよね」
「はい! 他にもあります」
不敵な笑みを浮かべるマリアンヌに聞きたいことは沢山ある。
突然、私の前にチャールズと共に現れたのか。トルメン大学校の制服を着ているのか。実技試験で選択した曲を知っているのか。聞きたいことは山ほどある。
「それは、俺が答えるよ。マリアンヌは試験の方が大事だろう?」
「……あ、ありがとうございます。チャールズさま」
「ロザリー、さあ、こちらへ」
チャールズの言う通り、マリアンヌは実技試験の結果を待っている。
私はチャールズの後をついていった。
☆
一学年の教室の廊下。
二人きりになれたところでチャールズの歩が止まる。私もそれに合わせて立ち止まった。
「さて、君はーー」
「ロザリー・クラッセルと申します。チャールズさま」
「そうだね。マリアンヌの妹のロザリーだね」
チャールズはそう言うと、私との距離を詰めた。
窓際に追いやられ、逃げ場を失ってもチャールズは私に近づく。彼の指が私の頬に触れ、首元に触れる。
「な、なにっ!?」
私の制服に手を伸ばしたところで、チャールズに声をかける。
振り払おうとしたそのとき、私の首にかけてあるチェーンを引っ張り、ネックレスの飾りが露わになる。
「あっ……」
「トゥーンでデートしたマリアンヌは、君、だよね?」
チャールズに貰ったネックレス。
私は制服の下に隠して付けていた。
いつチャールズに会って、ネックレスのことを確認されたらと思い、肌身離さず付けていたのだ。
「ご、ごめんなさい! これには事情があって―ー」
「はは! 怒ったりしないよ」
「……いつから、私がマリアンヌではないと気づいたのですか?」
私はチャールズに問う。
チャールズはどこかで私が本物のマリアンヌではないと気づいたはず。
「……君が家族の話をしたときから。その前から引っかかっていたけれど、確証はつかめなかったからね」
「そう、ですか……」
「とてもマリアンヌにそっくりだった。君の秘密は誰にもバレていないさ」
自分のことをチャールズに伝えたときから、彼は気づいていたんだ。
私は顔をあげ、チャールズを見上げる。彼はまだ私の身体に密着していて、耳を澄ませば息遣いが聞こえてくる。彼の胸をトンと軽く押し、離れてほしいという意思を彼に伝えた。
「このままでいたい、と言ったらどうする?」
「っ!! か、からかわないでください!!」
私はひゅっとその場にしゃがみ、素早く横にそれ、チャールズから離れた。
キッとチャールズを睨み、彼から視線を離さないようにする。
「君の正体を知った俺は、クラッセル邸に手紙を送った。それがきっかけでマリアンヌとの文通が始まったんだ」
「そう、ですか……」
「マリアンヌは君が学校生活になじんでいるか、とても心配していた」
マリアンヌとはお土産と共に手紙を送ったきり。
クラッセル子爵から返事は来たけれど、マリアンヌからは全く返ってこなかった。
マリアンヌに心配させまいと、嘘の内容を書いて送ったからだろうか。文通をしても、本当のことを教えてくれないと思った彼女は、私に返信することを止め、チャールズを介して私の様子を聞いていた。
気遣いが裏目に出てしまったようだ。
「そんなときに、君が実技試験で苦戦していることを聞いてね。マリアンヌと共に助けたってことさ」
「先輩とはいえ、私が決めた曲を知っているなんて―ー」
「君、選択曲を誰かに教えていないかい?」
「えっと、先生と……、あっ」
『”落ちる太陽”だな? 変更はないよな』
私が決めた曲をしつこく確認してきた人がいた。
「あいつ、俺に頼み込んできたんだ。君と一緒に演奏をしてくれ、とな」
「グレンがーー」
「そのとき、自分の実技試験とタッカード公爵の件で手こずっていたんだが、まあ、上手く行って良かった」
「その節は感謝いたします」
実技試験当日に都合よく助けてくれたのは、グレンがチャールズに私の選曲を伝え、一緒に演奏するよう頼んでくれていたからだ。
グレンはチャールズのことが大嫌いなのに、私のために頭を下げてくれるなんて。
「チャールズさま、真実を教えてくださり、ありがとうございました」
「君は婚約者の妹、俺にとって助けるに値する人だ」
「……」
「君たちのことは、俺が守る。これから、ずっと」
マリアンヌがチャールズの婚約者となったことで、彼は心強い味方となる。
それはとても良いことなのに、胸の中がチクリと傷んだ。
切ない。どうしてこんな気持ちになるのだろう。
「さーて、そろそろ結果が出る頃だろう。マリアンヌの元へ戻ろう」
「はい」
疑問は晴れないまま、私とチャールズはマリアンヌの待つ、試験会場へ戻った。
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