第49話 一緒に帰りましょう
私とチャールズが試験会場に戻ると、音楽科一年生の生徒たちが、壁に群がっていた。
実技試験の合否が出たのだ。
今回の試験の合否は順位は全く関係ないという。合格が出ない年もあると先生に脅されていた。
果たして、マリアンヌとグレンの結果はどうなったのだろうか。
少しして、合否が分かった生徒たちは各々の反応をしながら、試験会場から去って行った。
その場に残ったのは、マリアンヌ、グレン、そしてリリアンだ。
「ロザリー」
「チャールズさま!!」
私たちを見つけたマリアンヌとリリアンが近づいてくる。
マリアンヌは私にぎゅっと抱き着いた。
「受かった! 私、合格したわ!!」
「おめでとうございます!」
合格したマリアンヌは、感極まって私に抱き着いたみたいだ。
私はマリアンヌの腰に腕をまわし、自分の方へ強く弾き寄せた。
久しぶりにマリアンヌに抱きしめられた気がする。とても幸せな気持ちだ。
「チャールズさま、わたくし―ー」
「もう、俺とお前は関係ない仲だろう。気安く俺に近づくんじゃない」
「……わたくしとの婚約の破棄をお父様は本当に認められたのですか?」
「何度も言わせるな。俺はマリアンヌと婚約した。お前とは無縁だ」
「わたくし、わたくし! あなたに釣り合う女性になるために、努力してきたのに! どうして簡単に捨てるの!?」
「煩い、お前を見ているとイライラする」
「っ!!」
チャールズに冷たく当たられたリリアンは、駆け足で会場を出て行った。
気まずい空気が流れる。
「俺も、合格して特待生奨学金が継続することだし、荷造りするかな~」
「ま、まって!!」
私はマリアンヌとの抱擁を解き、グレンに声をかけた。
グレンは眉間に皺を寄せ、訝しげな顔で私を見る。
「えっと、試験のことは感謝してるんだけど、あんた、誰?」
(そっか、グレンは知らないんだ)
私はマリアンヌとして変装していたから、グレンのことをよく知っているけど、グレンは”ロザリー”のことは何も知らないんだった。
そのことに気づいた私は、服の裾を摘み、グレンに挨拶をする。
「はじめまして、グレンさん。私はクラッセル子爵家の令嬢、ロザリーと申します」
「あ、ども」
「マリアンヌお姉様のご友人とお聞きしています。お姉様の心の支えになっていただき、ありがとうございます」
「へえ、マリアンヌに妹がいたのか」
初対面の挨拶を終え、グレンはマリアンヌに声をかける。
「ええ。私よりも頭がいい、自慢の妹よ!!」
マリアンヌは堂々と答えた。目の前でそう言われると恥ずかしい。
「俺、来年もいることになったから。二学年もよろしくな」
「ええ!!」
グレンはマリアンヌにそう一言告げると、試験会場から出て行った。
いつの間にかチャールズもいなくなっている。
ここには私とマリアンヌ、二人きりになった。
「お姉様、来年は戻ってきてくれますよね」
「……そうね。ロザリーに無茶なことはさせられないもの」
私はマリアンヌに確認を取る。
来年、トルメン大学校に二学年として通ってくれるかと。
マリアンヌは肩を落としつつ、返事をした。観念した、と言いたそうな表情をしている。
「私もね、ロザリーに話したいことがたーくさんあるの! 馬車で沢山お話しましょ!」
「はい」
「じゃあ、寮から荷物を持ち帰らなきゃね。あなたの事だから、もう荷造りは済んでいるのでしょう?」
「ええ。あとは、持ち帰るだけです」
「なら、早くお家に帰りましょう! お父様が待っているわ」
「はい!」
私はマリアンヌと共に、帰宅のため、寮へある荷物を取りに行く。
☆
まとめた荷物を持ち、忘れ物が無いか確認して、私とマリアンヌはトルメン大学校を出た。
庭園を歩いていたところで、誰かが言い合いしている所に立ち会う。
「なんで、お前に『カルスーンへ帰るな』って言われなきゃいけねえんだよ!」
「忠告だ。俺の国マジルと、お前の国カルスーンでは”戦争”が起こってる。今、帰るのは自殺行為だとな」
「戦争だって!? デタラメいうな!!」
「そして、マジルの方が優勢だ。ソルテラ伯爵の魔法が無い限り、カルスーン王国は負けるだろうな」
「……」
言い争っていたのはチャールズとグレンだった。
内容は、互いの国が戦争をしていて、グレンの祖国が劣勢だということ。
グレンは唇を強く噛み、悔しそうな表情をチャールズに向けている。
「帰るところがないなら、俺と共に来るか? それなら丁重に扱ってやるぞ」
「ふざけんな!! 誰が、お前の慈悲をうけるか!!」
「あら、帰る場所がありませんの?」
二人の言い合いに、マリアンヌが割り込む。
チャールズとグレンは突然現れた、マリアンヌに注目する。
私はマリアンヌの後姿を見つめる。
この状況、マリアンヌだったらこう言う。
(でしたら、私の家にいらっしゃらない?)
「でしたら、私の家にいらっしゃらない?」
マリアンヌは私が思った通りの言葉をグレンに投げかけた。
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