第3章 いじめるリリアン

第17話 トルメン大学校へ

 トルメン大学校の目の前に着いた私はそこで立ち止まる。

 同じ制服を着た人たちが通り過ぎてゆく。

 誰も私の事を怪しんでいない。


(コソコソしていたら怪しまれるわ。堂々と威厳のある……)


 私は堂々とトルメン大学校の校門をくぐる。誰にも止められず、学校に潜入することが出来た。

 校門を入ると目の前に広がるのは、噴水庭園。

 庭の芝生は均一に切り揃えられ、木々は等間隔に植えられている。

 庭園の中央には大きな噴水があり、荘厳な彫刻から水が噴き出している。

 それらをこえると、トルメン大学校の校舎だ。

 四階建ての大きな建物で、外観の構造はクラッセル家の屋敷と似ている。メヘロディ王国の豪邸によくある構造だ。確か、目の前の建物が校舎で、奥に全学生が生活する学生寮があったはず。全学生が生活しているということもあって、学生寮はこの校舎よりも大きい建物に違いない。


(すごいわ……、マリアンヌはここに半年通っていたのね)


 私とマリアンヌの入学式の日が重なっていたこともあり、トルメン大学校に入るのは初めて。

 さすが多くの貴族が通う学校。

 私は庭園の広さと校舎に圧倒されていると、後ろから誰かがぶつかってきた。

 私は前につまづきながらも、バランスを整え、体勢を整えた。


「あんた、よく学校に来れたわね」


 振り返ると、腕を組み、怖い顔で私を睨んでいる女の子がいた。

 ツヤのあるくせ毛のない真っすぐな黒髪、真っ白な肌、私を睨みつける琥珀色の瞳。

 女の子の両脇にもいる。たぶん、彼女の取り巻きだろう。


「来るわ」


 私は女の子にそう答えた。

 反射的に答えてしまったが、今の私はマリアンヌに扮している。

 マリアンヌだったらどう答えるか。


「だって、始業式だもの!」


 満面の笑みを女の子に向ける。

 女の子は私の笑顔に顔が一瞬緩んだが、すぐに戻り、ぷいっとそっぽ向いた。

 

「そう言ってられるのも今のうちよ! 今学期は音楽科にいられるかしらね? 落第間近さん!!」

「あら、気遣ってくれるの? そうね。落第しないように頑張らないとね」

「……あんたと話してると気が狂うわ!!」


 私に吐き捨てると、女の子はスタスタと早歩きで校舎へ向かっていった。


「リリアン様、お待ちください!」


 取り巻きの一人が、女の子の名前を呼びながら追いかける。

 私にわざとぶつかって、威圧的な態度を取った子はリリアンというのか。

 リリアンとマリアンヌは仲が悪い様子。それに、リリアンの傍には常に誰かがいて、彼女の機嫌を損ねないように気を遣っている。多分、位の高い貴族の娘に違いない。


(お姉さま、あの人に一体何をしたの?)


 マリアンヌは人に好かれる性格をしており、嫌われることはない。

 やっぱり、学校を辞めたい理由はトルメン大学校にある。私が知りたいことはここにあるのだ。

 クラッセル子爵にバレるまで、私が首都にいると分かるまで一か月は猶予があるはず。それくらいあれば、学校生活の様子が一通り分かるだろう。

 私の目的はマリアンヌがトルメン学校を音楽を辞めたいと思った理由を知ること。

 納得できるのであれば、素直に屋敷へ戻る。

 けれど、理不尽なものだったら、リリアンの嫌がらせが原因だったらーー。

 リリアンの嫌がらせを無くす。マリアンヌが快適な学校生活を送れるよう環境を整える。


(お姉さまの幸せを崩す奴は、誰であろうと絶対に許さない!)


 これからの方針を決めた私は、トルメン大学校の校舎の扉をくぐる。

 私の新たな学校生活はここから始まった。

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