第21話 遺品整理

 オリバーが戦死する日。

 私はこの日、休みを貰い、洋裁の先輩に頼んでブルーノが好む化粧を施してもらう。


(この姿なら――)


 午後になり、使用人とメイド全員が広間に集められる。休みを貰っていた私も住み込みのため、強制的に呼び出される。

 広間へ行くと、輪の中心にスティナとブルーノがいる。

 少し待って、二人の口からオリバーが戦死したことを伝えられ、ブルーノが新しいソルテラ伯爵になると宣言された。


 ここまでは予定通り。

 変わるのはこれからだ。


「あのブタの部屋の遺品整理をしろ!!」


 いつもであれば、オリバーの遺品整理に私を指名するのだが、化粧をしている今回は立候補制になっている。

 その中、私は手を挙げた。


「私が、やります」

「そなた……、おお、エレノアではないか!」


 立候補した私の名前を憶えてくれている。

 他に立候補したものはおらず、私は無事、ブルーノから遺品整理の役割を与えられた。

 私は前へ出て、ブルーノの前で一礼する。彼はいやらしい目で私を見ていた。


「何かあったら、俺を呼ぶんだぞ」

「かしこまりました」


 私はブルーノとスティナを横切り、階段を上る。

 そのまま横切れると思ったが、突然ブルーノが私の腰を抱き、耳元で囁いてきた。

 不意に耳元でブルーノの声が聞こえ、ゾクッと悪寒がしつつも、私は彼に返事をすると、すぐに離してくれた。


 二階に登り、私はオリバーの私室に入った。

 部屋のドアを閉じ、背後に誰もないことを確認すると、その場にへたり込み安堵のため息をついた。


(私が試したかったこと、一つは達成した)


 それは、化粧をした姿で参加してみること。事実、私に指名するところから、立候補制に変わった。別の誰かが指名されるわけではないことが判った。

 そうなった場合は、その人の仕事を手伝う体で隙を突いて隠し部屋へ向かい、”三か月前”へ時戻りするつもりだった。


「さて、次の作戦のためにそれとなく”遺品整理”をしますか」


 次の作戦のため、私はオリバーの遺品整理を始めた。

 クローゼットにある、オリバーの洋服やネクタイ、杖、ハットは”いらないもの”。

 キャビネットの引き出しにある時計や標本になっている宝石類は”いるもの”。

 本棚にきちっと収められている本類は”分からないもの”。

 他のものも三つに分類し、せっせと片づけてゆく。

 最後に私が片づけようとしたのは、隠し部屋の入口を隠している、肖像画だった。


(これ、痩せていた頃……、ソルテラ伯爵になる前のオリバー様かもしれないのよね)


 何度も【時戻り】を続けている間に、肖像画の人物が過去のオリバーであるかもしれないと思えてきた。

 私は最近、働きにきたばかりだからふくよかな姿のオリバーしか知らない。

 けれど、オリバーは当主になり、食事面で苦労してあの体型になったのだとわかってきた。

 メイドの間では『突然、ふくよかになって不安だ』という意見もある。

 肖像画の人物が、当主になって現在の姿になったというなら、もはや別人である。


「もし、この人が昔のオリバーさまなら、求婚する令嬢が沢山いたんだろうなあ」


 ふくよかな状態でも、丸くて人懐っこい瞳や、赤ちゃんの肌のようなタプタプした頬など、愛らしい部分はあった。穏やかで優しい性格も相まって、美女揃いのメイドたちに好感を抱かれていたのだが、肖像画の姿であの性格であったなら、第一印象もあいまって様々な女性に好感を抱かれていただろう。外面だけがとりえのブルーノの比ではないはず。


「いやいやいや、今は関係ないこと!」


 ぶんぶんと首を振り、妄想を払う。

 肖像画を部屋から出し、隠し部屋に”ある細工”をして、ブルーノに与えられた仕事はひとまず終わったと思う。

 ―― 何かあったら俺を呼べ。


「さて、あいつを呼びますか」


 私はオリバーの私室を出て”ブルーノを呼ぶ”という今までやらなかった行動をとることにする。

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