第13話 【三度目】スティナの命令

 オリバーが戦死し、私はブルーノから二度目の遺品整理を命じられた。

 ブルーノの命令を受けた私は、すぐにオリバーの私室に入り、隠し部屋に向かった。

 部屋の中で、青白く光っている水晶を手にし、初代ソルテラ伯爵と名乗る男の声を聞く。


「……三か月前に戻して」


 私は水晶にそう命じた。

 それは私の願いを聞き入れ、三度目の【時戻り】を起こす。


 皆に私が紹介される光景。

 これをみると”また”戻ってきてしまったなと思ってしまう。

 私は皆に前と同じような意気込みを告げた後、メイド長から掃除・洋裁・料理の適性試験を受けた。

 結果はどれも合格。


「あなた、三つの仕事のうち、どれをやりたい?」


 三つの仕事の内、どれを行うか問われる。

 私は二度【時戻り】を行い、すべての仕事を経験した。

 どれも長所・短所があり、どの仕事を行えばオリバーを救えるか分からない。

 分からないけれども、少しずつオリバーが置かれている状況が明らかになってきている。


(オリバーさまは”隠し部屋”のことを知らない)


 オリバーは庭園の小屋で魔法の研究を行っている。

 運命を変えるには、彼に隠し部屋の存在を伝えることだろう。

 だけど、それを実行する前に確認したいことがある。


「……洋裁をやりたいです」


 私はある目的のため、オリバーとの接点が一番ない、洋裁の仕事を選んだ。

 


「ブス! 高い生地が台無しじゃない!!」


 私が作ったドレスをスティナが酷評する。

 前回と同様、縫い合わせた際に、生地の柄がずれて台無しだと文句を言われた。

 その後、先輩は「そうじゃない」とフォローしてくれたし、何も手を加えずとも「他の者が手直しした」と伝えたら、彼女はそのドレスをすんなり受け取ったことを知っている。


「……いいえ、柄がずれないように計算して縫い合わせました」

「エレノア!」

「あら、口答えするわけ」


 私はスティナの文句に反論した。

 事実、ドレスを作る際、生地の裁断と縫い合わせには神経を使った。

 完成後、三度確認しても柄のずれなどないことを確認してもいる。

 自信がある私は、堂々とした態度でスティナに言い返す。

 反抗的な態度に、先輩が場を止めようとするも、私の反論したことにより、スティナの眉間に皺が寄る。

 私の隣で先輩が小さなため息をしているのが聞こえる。私とスティナの対立が止められないと悟ったのだろう。


「はい。私が仕立てたドレスは完璧ですので」

「自意識過剰で生意気なブスだこと。こんな奴が歴史あるソルテラ伯爵のメイドだなんて、質が落ちたことね!」


 スティナは語気を荒げて、私を威嚇する。

 これは彼女の常とう手段だ。

 三度【時戻り】をして、メイドをいびるパターンを理解している私にとって、予想内の反応だった。

 前の私は、ブルーノとスティナに怯えてばかりだった。

 だけど、今の私は違う。

 三つの仕事をそれぞれ三か月やっている私には、仕事に対してのプライドと自信がある。

 

「でしたら、”どこが”ずれているか私にご指摘願えませんか?」


 スティナの目の前にドレスを突き出し、彼女がどこに文句をつけているのか問う。

 前に作ったドレスだったら、じっくり観察すれば粗を見つけることが出来たかもしれない。

 だけど、今回のドレスは隣にいる先輩の指導を三か月受けて制作したものだ。前回のものとはまるで違う。


「……」


 スティナはドレスを凝視し、粗を探す。しかし、彼女からの文句は出なかった。

 私はその様子をじっと見つめる。ドレスに付けられた装飾品を意図的に引きちぎらないか彼女の行動を監視するためだ。


「ふんっ、今回は特別に許してあげるわ。私の寛大な心遣いに感謝することね」

「ありがとうございます。スティナさま」

「ブスだけど、技術はそれなりにあるのね」


 指摘する場所を見つけられなかったスティナは、しぶしぶ私の作ったドレスを受け取った。

 負け惜しみで、私の洋裁の技術を評価してくれた。


「……今回は、あんたにしようかしら」


 スティナは私の顔と身体を上から下までじっと見る。

 私に何かをさせようと決めたみたいだ。

 徹底的に私を追い詰めるための無茶な仕事だろうか。

 私はスティナの指示を生唾をゴクリと飲み込みながら待った。


「明日、このドレスを着て、買い物へ出掛けるから。着付けと荷物持ちをして頂戴」

「あ、はい。かしこまりました」


 これは予想外。

 私はスティナの発言に耳を疑いつつも、返事をした。

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