第11話 壊されたくない日常
料理の仕事を選んだ私は、厨房で皆にこき使われていた。
ここの仕事はオリバー、スティナ、ブルーノの食事・軽食・夕食を作ることと、働く私たちの食事を作ることだ。私たちは朝食と夕食の二食だ。
三人の希望があれば夜食を用意することもあり、他の仕事に比べて休む暇もなかった。
「エレノア! 用意はできたか!?」
「はい!」
シェフが大声で私を呼ぶ。
新人の私は使用人とメイドの食事の配給だった。
今日の夕食はシェフが作った野菜スープとホルスのくず肉が二切れと私が焼いたパンである。
「どうぞ」
「ありがとな」
一列に並ぶ彼らに、私は決められた分量の食事を配る。
戦時中で二食付きというのは、とても恵まれているほうだと思う。
"食事で困ることが無いように"というのがオリバーの信念らしく、私たちの食事も気を遣ってくれている。これに賃金が付いているのだから、皆、オリバーについて行こうという気持ちになるのも分かる。
(もし、ブルーノがソルテラ伯爵になったら……、一食になってしまうのかしら)
私はスープを食器に移しながら、ふと未来の事を考える。
この先、私が未来を変えられなければオリバーは戦死し、ブルーノがソルテラ伯爵家の当主になる。
ブルーノは使用人を使い捨てのコマだと思っている。食事が減らされる可能性だってなきにしもあらずだ。
そうなったら、皆はブルーノの仕打ちに耐えられず、他の職場を探すだろう。
(それは、嫌だな)
掃除班、洋裁班、料理班、どこも仕事には厳しいが職場の環境はどれも良かった。
先輩たちの連携もよく、仲が良い。
職場の雰囲気がいいのは、きっと従者を大切に想うオリバーの人柄のおかげだ。
(ここをブルーノに壊されたくない。だったら――)
私が配った食事を楽しそうに食べる先輩たちを見て、【時戻り】を絶対に成功させるのだと私は強く心に誓った。
☆
私が料理班で働き始めて一か月。
オリバーに接触するチャンスが訪れる。
それは、調理場で夕食のパン生地を仕込み終えてからのことだった。
「エレノア、仕込み、終わったか?」
「はい! 後は生地を寝かせるだけです」
「そうか。だったら、これを小屋にいるオリバーさまに持って行ってくれないか」
(小屋!!)
シェフが渡してきたのは、お茶が入ったポットとカップ、甘いジャムが付いた焼き菓子が入ったカゴだった。
一か月ここで働いて分かったことは、オリバーの食事量がスティナとブルーノの二倍だということだ。
オリバーは毎日五食たべ、時折お菓子を食べる。
今日はお菓子を食べる日であり、持ってゆく場所が前回私が入ることのできなかったあの小屋である。
私は小屋へ入れる嬉しさを必死にこらえ、シェフに問う。
「シェフ、あの……、小屋というのは」
「すまん。エレノアは初めてだったな。小屋は――」
場所は前の【時戻り】で知っているものの、今回の私はまだ小屋の存在を知らないことになっている。
そのまま小屋へ向かっても良かったが、私は何も知らない体でシェフに質問した。
シェフは私に小屋の道筋を教えてくれた。
庭園を出て”軟膏草”に囲まれた道を奥へ進むと、ツタだらけのボロそうな小屋がある、と。そこにオリバーがいるからカゴに入っているものを持って行って欲しいと頼まれる。
私はシェフの聞き「はい」と答えた。
「では、行ってきます!」
私はシェフにそう言い、庭園の小屋を目指した。
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